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白い服の少女が、「あっ」と短い悲鳴を上げた。いったい何を考えているのか、院長の方へ歩み去ろうとする。湯浅は腕を掴んで、引き止めた。
「下がっていなさい」
有無を言わせない力のこもった声に、少女は黙って頷いた。
再び、短針銃の発射音がした。湯浅の体が素早く動いて、少女の前に盾となって立ちはだかった。
上司の左手にはめられた、パンダのぬいぐるみが電光石火の動きをする。パンダは飛来した短針弾を難なく、口で掴み取った。
ほっとすると同時に、手を何本ものナイフで突き刺されるような痛みがぶり返してきた。黒田は膝をついたまま、天井に向かって苦痛の叫び声を放った。
「患部を切り落とさなければ死んでしまうぞ」
湯浅の言うとおり、死を免れる方法は他にない。
BCWは人の悪意が創造した、悪魔の兵器だ。爆発的な細胞の増殖によって、黒田の血液と体力は急速に奪われている。すでに手首の近くまで、患部が急速に拡大していた。処置が遅れて胴体にまで広がってしまえば、切除することができなくなり、彼はついに一個の肉塊と化してしまうだろう。
禁断の兵器がもたらす苦痛と、屈辱的な死から逃れる方法は一つしかない。
「湯浅さん、お願いします」
「腕を水平に上げて、固定できるか」
左手を右肘に移して、腕を湯浅の前に差し出す。手首から先はハンドボール大の肉の塊に変化して、どちらが手の甲でどちらが手の平のひらかさえ分からなくなっていた。
「佐伯、武器の使用許可申請を」
「代理申請済みです。承認番号:2、1、〇、4、5、〇、A、です。安全装置を解除して下さい」
「承認番号:210450A、了解」
湯浅は右手の特大警棒を目の前に捧げ持った。通常時は全長50センチ程度、太さはラップフィルムの芯ほどの極太警棒だ。生体認証と承認番号で安全装置を外して鞘から引き抜くと、ハイブリッドタングステンで拵えた刃渡り45センチの直刀が出てくる。
痛みのせいか、視界が暗くなってきた。朦朧とした意識の中、二海院長の背後にある扉が開き、眩い光の中からもうひとりの院長が飛び出してくる様子が目に入った。
どうやら幻覚が見え始めたようだ。もう時間が無い。黒田は声を絞り出した。
「湯浅さん、早く。お願いします」
「あゝ」
湯浅がいつもより乾いた声で返事をした。
上司が剣を抜く。銘「倶利伽羅」という諸刃の直刀だ。刃がぎらりと光を反射する。黒田はきつく目を閉じた。
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