兄と俺と教育実習生

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 「はぁ、はっ...あ、土屋...土屋...っ」  数分間続いた金縛りが解けてすぐ、俺は走って兄貴の部屋を出ると自分の部屋へと逃げていった。  震える手の中にある携帯を使って俺は迷わず土屋へ電話をかける。  『もしもし、渉君?急にどうし――、』  「土屋っ、今すぐ俺の家に来てくれ...っ、お願い、お願いだから...っ」  『渉君大丈夫?一回落ち着こう。何かあったの?』  「いいから早く来てくれよ!後で全部ワケを話すから...っ、」  『う、うん。分かったよ、すぐに行く。着いたら、ワケもちゃんと教えてね?』  「分かったから早く来て...っ、家の鍵、開けてるから勝手に入ってきてよ。家、着きそうになったらメールして、」  『分かった。それじゃあ、』  ツーツーとなる携帯を耳から離しベッドの上に置く。  未だに震える体。バクバクとなる心臓。  とにかく1人でいるのが嫌で土屋を呼んだ。  ――落ち着け、落ち着け...っ、もうすぐ土屋だって来てくれるんだ。  多分、土屋は車で来るだろうから遅くても15分くらいで家に着くはずだ。  「...きっと疲れていたんだ。疲れていて...」  事実、金縛りにはあったが実際に兄貴の姿を見たわけではない。  短い期間で色んな事があったから、精神的に疲れていたんだ。  「少し落ち着こう、」  そして数回、ゆっくりと深呼吸をすると俺は気持を落ち着かせるのと同時に、染みついた線香の匂いもおとそうとシャワーを浴びるために浴室へと向かった。  服を脱いだ俺は馬鹿らしいと思いながらも先程のことが気になって脱衣所の電気もつけたまま浴室に入る。  「はぁ...」  シャワーの温かい湯を頭から浴び、顔を軽く両手でこする。  そうしているとまるで体に纏わりついた嫌なもの全てが流されていくような感覚になり、徐々に頭がスッキリとしていく。  ――さっきのことは...土屋との笑い話か何かにしてしまおう。深く考えるのはやめだ。考えたってしょうがないのだから。  そう考えながら湯にあたっていれば、不思議と恐怖心もなくなり、何だか先程までの自分自身の言動が気恥ずかしく感じてきた。  あんなに慌てて...土屋だって驚いたはずだ。  ...俺らしくもない、あんな姿。  数分前の自分の姿に対して軽い笑いが込み上げてくる。  「...そろそろ、出るか」  そうしていつもの調子を取り戻せた俺は、もうすぐ来るであろう土屋を出迎える為に浴室を後にしようとシャワーのノズルを止めた。  キュッ、というノズルの閉まる音。そしてポタリ、と俺の髪の毛から滴が落ちた――その時、  「...ぁ、また...っ、」  浴室と脱衣所の電気が消え、真っ暗になると足の指先から頭の天辺まで一気に体が硬直した。  それはつい先程、体験したものと同じものだった。  しかし、先程と違って視界は何も見えず、あたりからは何の音も聞こえない。  「...っ、...、」  逃げ出したくても体が動かない。恐怖から生まれた声も出すことができない。  ―ヒタ...ヒタ、ヒタ...  「...っ!!」  急に冷たい何か...手の平のようなものが足、そして腰の方へと触れていき、俺は恐怖から目に涙の膜を張らせた。  ―いや、だ...いやだいやだいやだっ、  溢れるほどの恐怖心で胸が張り裂けそうになる。再び心臓がバクバクとうるさく鳴り始めた。  ―助けて、助けて...誰か助けてくれよ...っ、  徐々に上がっていく手の感触。温まっていた俺の体も、その手が触れていった場所から順に冷えていく。  そしてついにその手が頬に触れ―――、  真っ暗だった電気がチカチカと点滅し....  漸く暗闇から僅かに明かりを受け止めた俺の視界いっぱいに、  「  ワ タ ル  」  首の折れた、兄貴の姿が写った。
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