教育実習生と俺

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 『兄貴、彼女連れてきたんだ。紹介したくてさ』  長いきれいな髪の彼女を横に、俺は兄貴の部屋の扉を2、3回軽くノックする。  隣に立つミキは初めてできた彼女だ。ミキは周りのように兄貴を求めるのではなく、俺だけを見てくれた唯一の人間だった。大切な存在。だから兄貴に紹介しようと思った。  『兄貴...?』  しかし、兄貴は部屋にいるはずなのに部屋の中からは物音ひとつ聞こえなかった。  おかしい。寝ているのだろうか。そう思い、静かに扉を開け覗き込むようにして隙間から中を見る。  『...なんだ、返事が無いから寝てるのかと思った。入るよ、兄貴』  てっきりベッドの中にでもいるのかと思ったが、兄貴はいつものように机に向かって勉強をしていた。  どこか恥ずかしそうにしているミキの手を取り、中へと入った時、漸く兄貴はこちらを見てきた。  『彼女って...渉と付き合ってるっていうのか...?』  『あぁ、ミキっていうんだ。その...兄貴にはちゃんと紹介しておきたくて、』  『こんにちは、お兄さん』  軽くお辞儀をし、挨拶を終えたミキは俺の方をチラリと見上げる。    そんなミキの頭を軽く撫で、前を向くと無表情の兄貴と目があった。  『...兄貴、』  てっきり一緒に喜んでくれると...よかったね、と一言笑って言ってくれると思っていた。  しかし兄貴は今まで見たこともないような表情で、とても冷たい眼差しをしていた。  今兄貴は何を考えているのかが、全く分からない...怖い、と思った。  『あーあ、気がつかなかったなぁ...油断してたよ』  『...は?油断って...ちょ、何だよっ、兄貴!?』  一歩一歩俺に近づいてきた兄貴は俺の手首を掴み、強く引っ張ってきた。そしてそのまま数歩歩いた先にあるベッドの上へと倒される。  『わ、渉君...』  ミキは先程までの表情を崩し、心配そうに声を震わせた。すぐに俺はミキを安心させようとベッドから起き上がろうとするが、そうすることは...できなかった。  ――体の上に、兄貴が跨るようにして乗っかってきたために。  『おい、何の冗談だよ...どけよ、』  『冗談...?いいや、本気だよ。渉は僕のものなんだ。僕だけのもの。そこの女なんかのもんじゃない。だからわからせてやるんだよ?渉は僕のものなんだ...って、今からさ。』  瞬間、兄貴の顔が近付き唇が重なり、深く交わってきた。  状況についていけない頭は上手く反応することができず、目を開けたまま体は固まってしまった。  そしてその隙をついて、兄貴は俺の服の中に手を入れ、胸の突起に触れてきた。  ―  ――  ―――  「っ!!...はっ....はっ、クソ...っ、」  目を開けると部屋の中は暗く、窓から見える景色も比例して暗くなっていた。  目覚めの悪い夢を見たせいで呼吸が安定せず、荒い息遣いになる。背中は冷や汗を掻いて、しっとりと湿っていた。  ―今の夢は....。あの後、結局俺はミキの目の前で兄貴に...  嫌な記憶だ。最悪な...記憶。  好きだった...大切だった彼女の目の前で無様に犯されて...  彼女は気づかないうちに帰っていた。そしてその次の日から彼女は俺を避けるようになり、俺とミキの付き合いは自然消滅という状態で終わった。  だけど俺と兄貴のことについては誰にも言っていないようで、学校でそのことが広まることはなかった。  ―童貞卒業の前に後ろの処女を失くすとか、本当笑えねぇ...。  吐いた溜息は思ったよりも深いものだった。
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