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アイビーの花言葉「死んでも離れない」
純一の家に着くと、新築の家に明かりはついていなかった。
そして、玄関先には、純一の奥さんと母親が、怪訝そうな顔で話し合っていた。
「あら、久しぶり。どうしたの?こんな時間に」
声をかけてきたのは、純一の母親だった。
子供のころから世話になっている顔見知りだ。
隣で、純一の奥さんであるユリさんが、ぺこりと頭を下げた。
「おばさん。聞きたいことがあるんだ」
僕は二人の反応を無視して、ばくばくと鼓動する心臓に急き立てられるように、純一の母親に声をかけた。
「おばさんは、最近手土産に花を持ってきてたんだよね」
「ええ」
「その花の花言葉を知ってる」
「いいえ、聞いたけど忘れちゃったわ。でも、縁起がいい花言葉だったわよ。
協力とか、神秘とか、変わらぬ愛とか」
「その花は、おばさんが選んだもの」
「いいえ。お店の人が選んでくれたのよ」
「そのお店はいつも同じ店」
「ええ、店員さんから声をかけてくれたの。手土産に花はどうですかって」
「店員さんはいつも同じ人」
「ええ、そうよ。かわいらしい女の人で」
「黒髪で、フワフワした服を着た」
「ええ、そうよ!知り合いなの?」
僕は、困惑する二人を静かに押しのけて、玄関のノブに手をかける。
カギはかかっていなかった。
がちゃり。と音がした。ぎいっ。とドアが開いていく。
玄関にアイビーの鉢植えが、ちょこんと飾られていた。
花はついておらず、特徴的な星型の葉っぱが垂れ下がっていた。
亡者の腕の様に互いに絡まりあったアイビーのツタが、ぬらりと来訪者を出迎えた。
あの時僕が、もう少しだけ考えを進めていれば、送られた花の頭文字をつなげるなんて言う子供じみた暗号に気付くことはできたはずなのだ。
アイニイキマス。
そんな冗談みたいなメッセージを残す人物を、僕は知っていた。
この惨劇を回避することはできたはずだったのだ。
死んでも離れない。
血だまりだけが残る玄関で。
執念じみたアイビーのツタが、滴るほどの赤で染まり、闇の中で浮きだすように光っていた。
くすり。と、背後で女の笑い声が聞こえた気がした。
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