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……え?
兄貴今なんてった?
きゃっ、とうとう言っちゃった、とまるで乙女のようにほっぺにてのひらをあててくねくねする兄貴と、兄貴が何を言ったのか頭の整理がつかない俺。
テレビについたままの番組のMCの笑い声が二人の間に流れる。
「……えと、兄貴。なに?」
「ん?だから、冴ときss「大丈夫もう言わなくていい」」
なんだって?
俺とキスがしたいって?
なんだなんだ、結構前から兄貴の頭は心配していたがとうとうやばくなっちまったのか。
「まって兄貴、なんで?」
「なんでもなにも、お兄ちゃんはずーっと、冴のこと大好きって言ってきたよね。最近冴が特に可愛くて、キスしたいなって思うようになってきたんだけど、無理やりしたら嫌われるから」
ペラペラと喋る兄貴の言葉は、俺の耳を右から左へ流れていく。
あ、もしかして。
「兄貴、欲求不満なら彼女でも作れば?」
兄貴は今まで恋人がいたことがない。
ていうか初恋をしたかどうかすら知らないが。
女の子に対しての恋愛感情を知らないから、この過剰な兄弟愛を恋愛だと勘違いしてしまったのかな?と思う俺。
ていうか、そうであってほしい。
だが兄貴は、やはりというか、期待通りの反応ではなかった。
「女になんか興味ない。お兄ちゃんは、……俺は、冴が好きなの」
真摯な瞳で訴えるように言う兄貴。
これほどマジな顔の兄貴を俺はここ最近見たことがない。
したいと言われても、俺の頭は今沢山のクエスチョンマークで埋め尽くされている。
「えーと、兄貴」
「はい」
「俺は別にしたいとは思わないというか、普通に女の子としたいというか。てかファーストキスもまだだし」
自分で言ってて悲しくなることを喋ってるこの口は誰の口だ。
ファーストキスまだとか(泣)。
「てことは、ファーストキス済ませたら俺ともキスしてくれるの?」
「いやそういうわけじゃないじゃんね」
俺が即否定すると、少し下を向いて悩む素振りを見せた兄貴。
てかなんだ、前々からずっと好き好き言われ続けてきたが、兄貴の『好き』は恋愛の方の『好き』なのか?
LIKEじゃなくてLOVEの方?
「じゃあさ」
兄貴が顔を上げて言う。
「キスはまだいいから、久しぶりにお兄ちゃんに耳掃除をさせて?」
「は?」
なんじゃと?ミミソウジ?
「いーい?」
少し上目遣いでお願いしてくる兄貴。
なんでこの歳にもなって兄に耳掃除をされなきゃならんのだ。
「え、別に間に合ってます」
ふっと視線をテレビに戻す。
「キスと耳掃除、どっち」
……なんだその選択は。おかしいだろ。
でもまあ、ファーストキスを兄貴に奪われる訳にはいかないので。
「わかったよ、耳掃除されてやる」
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