兄のお願い

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「俺は口移しがいい」 知らねーよ。 女の子にしてやれよ。 「てかカレー頑張れば口移しできると思うけど」 「……え、それって冴、してほしいってこと」 「んなわけないだろ頭沸いてんのかごちそーさまでした。」 俺はさっさと食べ終わると、食器をシンクで洗い始める。 両親は今、海外で働いている。 実質二人暮しな俺たちは、いくつか過ごす上でのルールを決めた。 そのうちの一つが、自分の使った食器は自分で洗う。 最初は兄貴が全部やると言われたが、俺はちょっと申し訳ない気がして、自分で洗うと言った。 その他にも色々家事を分担したりしてる。 料理は俺には出来ないが、それ以外の家事ならほとんど出来るようになってる俺。 こんな家庭的な男子いないぞお買い得だぞなんでモテないんだとか一時期考えたけど、今時家庭的な男子は珍しくないもんな。 と自己解決してモテないことを受け入れつつある。 いや、やっぱモテたい。 「冴ー、お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」 食後にソファーに座りながらテレビを見てた俺の隣に座ってきた兄貴。 なんか嫌な予感がする。 こういうときは無視だ無視。きっとろくなこと言わない。 「ねぇ、冴ってば」 ……。 「ねーえー」 …………。 「……」 あ、黙った。 兄貴をちらりと盗み見ると、まるで捨てられた子犬のように目をうるうるさせて今にも泣き出しそうだった。 「お兄ちゃんまだ何も言ってないのに無視するなんて。僕のこともう嫌い?嫌いになっちゃった?もう口も聞きたくないくらい嫌い?ねえ、冴」 ……めんどくせえ!!! 「なんだよ兄貴今テレビ見てんだよ」 無視を続けた方がめんどくさいと悟った俺は兄貴に言葉を返してやる。俺って優しいやつ。 すると兄貴の顔がぱああっと輝いた。 やめろそんな顔で俺を見るんじゃない輝きすぎてて目が眩む。 「お願いって、なんだよ」 「うん、あのねあのね」 あのねあのねとか、5歳児の女の子が使ったら可愛いが高校三年生の野郎が言ったって気持ち悪いだけだからな。 いっとくけど俺はロリコンではないぞ。 「えっと」 「うん」 「あのね?」 「……」 「ん、と」 「早く言え」 「う、うん」 兄貴はすーはーと深呼吸をすると、覚悟を決めたみたいな顔して俺の顔を見つめた。 いつになく真剣な兄貴の瞳に、俺はちょっと息を飲む。 そんな大事な話なのか……? 「冴と、キスがしたい」 ……ん?
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