声だけ聞けば

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【冴side】 耳掃除のあと。 俺は、一人でテレビを見ていた。 思い出されるのは、耳掃除後、さっさと自室へと戻った兄貴のこと。 耳が弱かったとはいえ、やっぱりうるさかったかな。 テレビの賑やかな音声を耳に入ってこず、悶々としていたら。 「冴」 「……兄貴」 足音もなしに近付いてきたから驚いた。 「そんなにテレビ見て。課題は終わったのか?」 兄貴の様子はいつも通りで、ちょっとおどけた叱り口調で俺に言う。 「……これからやる」 もしかして、自分の怒りを悟られないためにわざとそういう口調にしているのかも。 「……兄貴」 震える声で呼ぶ。 いつまでもこんなもやもやしたくない。 気になることは聞いてすぱっと解決したい。 「ん?なに?」 兄貴が優しく問う。 「……怒ってる?」 恐る恐る、聞く。 だが兄貴は驚いた様子だった。 「お、怒って、ないけど……どうして?」 怒っては、なかったんだ。よかった。 でも、俺がうるさかったことは事実だ。 俺は兄貴を目を合わせずに口を開く。 「だって、耳掃除のあと、俺の声にも少し返しただけですぐに二階行ったろ?俺、耳掃除中うるさかったから……」 最後のほうはもごもごなったけど、きちんと言えた。 ちらと兄貴の表情を窺うと、なんとまあよく分からない顔をしていた。 笑っているようだけど、なんか眉を下げてぷるぷるしてる。 どうしたんだ。 そして、兄貴はふわりと笑って言った。 「全然、怒ってないよ。ていうか、冴が耳弱いことお兄ちゃん知ってるから」 美形な兄貴の優しい笑顔は、男の俺でも見とれるほど綺麗だ。 安心したのと、兄貴の優しさに、自分の顔が綻ぶのが分かる。 「よかった」 やっぱり兄貴は何だかんだ優しい。 変態だけど。 学校で王子とか言われてるのも頷ける。 変態だけど。 そんなことを思ってた俺に兄貴は軽く微笑み、また二階へと戻っていった。 俺も再びテレビに顔を向けようと、振り向きざまにあることに気付く。 ……あとで部屋に上げようと思って、カーテンにハンガーで吊るしておいた制服がなくなってる……。 ……まあいいか。家の不思議は、兄貴に聞けば大体解決される。 テレビを見た後にでも、聞いてみようっと。 あ、刑事ドラマの再放送やってる。 シリアスなシーンだったため、俺も初見だが内容にのめり込む。 刑事が、犯人をだんだんと追い詰めていく。 そして、興奮が最骨頂に達した時。 二階から兄貴の叫び声が聞こえてきて、心臓が飛び上がった。 なんだなんだなんだ!何があったんだ!! 兄貴は普段から穏やかだから、叫ぶことなんてそうないのに……。 俺はバクバクする胸に手を当てて、訝しげに二階へ続く階段の先を見つめた。
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