【小話】エイプリルフール

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【小話】エイプリルフール

入学してから、一番最初にある小さな行事と言えば、エイプリルフール。 くだらないかもしれないが、これが結構盛り上がったりするんだよな。 そして、今日がそのエイプリルフール。 今年は誰に嘘つこっかなあ。 ……あ、いい事思いついた。 くっくっく、今から笑みが漏れる。 が、頑張って我慢。 俺、顔に出やすいタイプらしい(兄貴談)。 「おはよ!冴!今日も!相変わらず!可愛いね!!」 「……はよ、兄貴」 俺のターゲットは朝から相変わらず気持ち悪い。 自分の顔がしかめっ面になっているのが分かるくらいだ。 まあいいや。 兄貴は鼻歌を歌いながら朝食の準備中。 ……ふっふっふ、よし、俺が昨日思いついたネタを兄貴に言ってやる。 「あ、あにき」 「ん?なあに、冴?」 う、純粋(?)に輝いている兄貴の瞳が眩しい。 心が折れそうになるが……よし、目を合わせなければ大丈夫だ。 「実はね、兄貴」 「うん?」 「俺……」 「うん」 料理している手を止め、優しく相槌を打ってくれる兄貴。 ……やべ、罪悪感が出てきた。 ちょっと言い淀んだ俺を心配したのか、近くまで寄って顔を覗きこまれた。 咄嗟に顔をそらす。 罪悪感はあるが……正直、『これ』を言った時の兄貴の反応が気になる、という好奇心の方が強い!! 俺は意を決して一気に言った。 「実は俺、兄貴のこと、すっごい前から大っ嫌いだったんだ」 「……」 シーン。 あ、あれ? 兄貴が微動だにしないぞ。 インパクトが足りなかったかな? そういえば、普段から『気持ち悪い』だの『変態』だの言ってきたもんな。 『嫌い』よりも過激な言葉だから、今更言われたところで、っていうことかな? あまりに兄貴の沈黙が長いので、今度は俺が兄貴の顔を覗き込む。 「あ、兄貴……?」 「あ、あ、ご、ごめん、うん、うんそうだよね、分かってた、うん、大丈夫だから、……」 ん? すごい噛みっ噛みで大丈夫とか言われても全然信ぴょう性ないんだが。 「あ、あさ、あさあさ朝ごはん出来たから、食べな?……お兄ちゃん、さき、がっこ行くね」 「え、食べないのかよ?」 「うん、お腹空いてないから……行ってくるね」 「おう……?」 学校にて。 「ええ、冴、それ言ったの?」 「え、うん。いつもはもっと酷い事言ってるからすぐ流されると思ったんだけど、なんか様子がおかしくてさ」 「それは、やばい……」 「え、透真も?」 普段全然喋んない透真がはっきりと言った。 ヒロだけならまだしも、透真も。 うーん。 俺的には、嫌いとかより気持ち悪いの方が過激だと思うんだけどなー。 「それ、帰ったらちゃんと言いなね?嘘だよって」 「分かったよ」 「……ていうかエイプリルフールに嫌いって言ったってことは嘘ってことだよね?え、『兄貴、嘘だよ。嫌いじゃないよ』って帰ったら伝えるってこと?え、よく考えたらやばくない?お兄さん大丈夫かな、嬉しすぎて失神とかしないかな。あ待って、俺もその現場に居合わせたい。エイプリルフール万歳」 「……ヒロ、なんだって?」 「あ、いや、なんでもない」 お昼休み。 「……冴」 「なんだ透真よ」 「帰りたい」 「知らんがな」 「助けてさええもん」 「あはは、言いにくそお」 「いやヒロつっこむとこそこじゃない」 なんて、うだうだ過ごしていたら。 がったーん!! 「「「!?」」」 突然、教室に大きな音を響かせながら扉が開いた。 教室にいた俺たちやクラスメイトは揃って振り返る。 訪ねてきたのは、3年生のようだった。 「3年生が俺たちに何の用だ?てか誰だ?」 「……知らねえ」 「ええ、知らないの!?!?」 透真と俺とで顔を見合わせていると、ヒロが叫ぶ。 うるさいよ。 「ヒロは知ってんの?」 「いや、知ってるも何も、生徒会の副会長様だよ。ヒロも透真も、もう少し学校のことに興味もと?」 へえ、副会長さんか。 なんか見覚えがあるようなないような(ない)。
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