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その副会長さんは肩で大きく息をしていて、忙しなく視線をさまよわせていた。
急いで誰かを探しに来た?
じゃあ、誰を探しに来たんだろう。
「このクラスに、凪沢という奴はいるか!凪沢楓の弟!!」
……神様。
今だけ、俺の存在消すとか、できませんかね?
「あ、ここにいまーす!」
できませんよね……。
てか何勝手に答えとんじゃヒロ。
「あぁ、よかった。ちょっと一緒に来てくれないか?」
「何でですか。嫌です」
「……冴、相手一応先輩……」
知るか。
『凪沢楓の弟』という呼び方で呼びに来てる辺り、おおよそ兄貴絡みだ。
絶対行くもんか。
「緊急事態なんだ、お願いだ来てくれ!」
「でも、」
「頼む、この通りだ!」
……頭まで下げられてしまった。
うう、教室内にいる女子の視線が痛い。
「……副会長、女子人気高いんだよ。女子の反感買う前に行った方が身のためだぜ」
だろうな。
だって、副会長イケメンなんすもん!!
兄貴みたいな爽やか王子様系ではなく、やまとなでしこ風(?)な、一見堅物そうに見えるけど、眼鏡の奥にある瞳は優しげだ。
頼りになる系の先輩。
男の俺でもかっこいいと思った。
「……わかりました、行きます」
「……あれが、楓だ」
「あれが、兄貴……?」
いつも学校では、王子様な雰囲気を醸し出していた兄貴。
なのに。
なんということでしょう!!
人目もはばからず、机にもたれて口を開けてだらしなくしているではありませんか!!
……アイスかてめえは!とつっこみをいれたくなる。
周りにいる女子も、心配そうに見つめていた。
「……どうしたんすか」
「こっちが聞きたい。朝からあんな調子でな。何かブツブツ言ってるから耳をすましてみれば、『さえ』という単語を連発していた」
「なにそれきも」
「俺も思った。……あ、いや、ごほんごほん、で、周りの奴らに聞き込みして、『さえ』というのが、楓の弟の君、『冴』くんだと知ったんだ。君に会えば解決するかと思って呼びに来た、というわけだ」
そうだったんだな。
って。
「……俺の事は知らなかったんすか……?」
「ん?ああ。周りの奴らは『凪沢くんの弟でしょ?』って常識みたいな顔して言っていたがな。知らなくて申し訳ない」
頬をぽりぽりとかいて、情けなさそうに笑う副会長。
「いやでも、楓の弟とは信じられんな」
「え……?」
「いや、楓は案外おかしい奴だろ?でも、君は真面目そうで良かった」
副会長が俺に微笑む。
眼鏡の奥で、瞳をきゅーっと細くさせ、優しく。
……俺を、『凪沢楓の弟』としてではなく、『凪沢冴』として見てくれる人が、3年生にいたなんて。
なんだが、ちょっと感動してしまった。
ずっと、3年生だけでなく2年生にまで、『凪沢楓の弟』で通ってたから。
これだけで、っていうのもなんかアレだけど、副会長さんに好感が湧く。
「や、真面目なんてそんなことないです…」
「そうか?……まあともかく、冴くんは楓をどうにかできそうか?」
「自信はないけど……話してみます」
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