【小話】エイプリルフール

2/4
前へ
/33ページ
次へ
その副会長さんは肩で大きく息をしていて、忙しなく視線をさまよわせていた。 急いで誰かを探しに来た? じゃあ、誰を探しに来たんだろう。 「このクラスに、凪沢という奴はいるか!凪沢楓の弟!!」 ……神様。 今だけ、俺の存在消すとか、できませんかね? 「あ、ここにいまーす!」 できませんよね……。 てか何勝手に答えとんじゃヒロ。 「あぁ、よかった。ちょっと一緒に来てくれないか?」 「何でですか。嫌です」 「……冴、相手一応先輩……」 知るか。 『凪沢楓の弟』という呼び方で呼びに来てる辺り、おおよそ兄貴絡みだ。 絶対行くもんか。 「緊急事態なんだ、お願いだ来てくれ!」 「でも、」 「頼む、この通りだ!」 ……頭まで下げられてしまった。 うう、教室内にいる女子の視線が痛い。 「……副会長、女子人気高いんだよ。女子の反感買う前に行った方が身のためだぜ」 だろうな。 だって、副会長イケメンなんすもん!! 兄貴みたいな爽やか王子様系ではなく、やまとなでしこ風(?)な、一見堅物そうに見えるけど、眼鏡の奥にある瞳は優しげだ。 頼りになる系の先輩。 男の俺でもかっこいいと思った。 「……わかりました、行きます」 「……あれが、楓だ」 「あれが、兄貴……?」 いつも学校では、王子様な雰囲気を醸し出していた兄貴。 なのに。 なんということでしょう!! 人目もはばからず、机にもたれて口を開けてだらしなくしているではありませんか!! ……アイスかてめえは!とつっこみをいれたくなる。 周りにいる女子も、心配そうに見つめていた。 「……どうしたんすか」 「こっちが聞きたい。朝からあんな調子でな。何かブツブツ言ってるから耳をすましてみれば、『さえ』という単語を連発していた」 「なにそれきも」 「俺も思った。……あ、いや、ごほんごほん、で、周りの奴らに聞き込みして、『さえ』というのが、楓の弟の君、『冴』くんだと知ったんだ。君に会えば解決するかと思って呼びに来た、というわけだ」 そうだったんだな。 って。 「……俺の事は知らなかったんすか……?」 「ん?ああ。周りの奴らは『凪沢くんの弟でしょ?』って常識みたいな顔して言っていたがな。知らなくて申し訳ない」 頬をぽりぽりとかいて、情けなさそうに笑う副会長。 「いやでも、楓の弟とは信じられんな」 「え……?」 「いや、楓は案外おかしい奴だろ?でも、君は真面目そうで良かった」 副会長が俺に微笑む。 眼鏡の奥で、瞳をきゅーっと細くさせ、優しく。 ……俺を、『凪沢楓の弟』としてではなく、『凪沢冴』として見てくれる人が、3年生にいたなんて。 なんだが、ちょっと感動してしまった。 ずっと、3年生だけでなく2年生にまで、『凪沢楓の弟』で通ってたから。 これだけで、っていうのもなんかアレだけど、副会長さんに好感が湧く。 「や、真面目なんてそんなことないです…」 「そうか?……まあともかく、冴くんは楓をどうにかできそうか?」 「自信はないけど……話してみます」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

162人が本棚に入れています
本棚に追加