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「おいバカ兄貴」
椅子にもたれかかって上を向いていた兄貴に話しかける。
「ん?冴の声がする……空耳か」
「空耳じゃねっつの」
「ん……?」
兄貴が体を起こして俺を見た。
「……ああ、幻覚が見える」
「ふざけんのも大概にしろよ。なに副会長さん困らせてんだ。しっかりしろよな」
「……さえっ!?!?」
がったーん
派手に椅子を倒して立ち上がった兄貴。
ふん、ようやく現実だってことに気付いたみたいだな。
「どどどどdddddどぁ、どうしたの……?」
「どうしたもこうしたも、副会長さん困らすなっていってんだよ」
「副会長……?……ていうか、冴、俺の事嫌いなんじゃ……なんで来たの?」
だから、副会長さん困らすなって。
て、兄貴、まだ俺が朝言ったこと覚えてんのか?今日、エイプリルフールだってこと気付いてないのか?
「嫌いって言うのは……今日、エイプリルフールだよ、兄貴」
「えいぷりる、ふーる」
兄貴は、目をぱちくり。
「エイプリルフール……え、つまり、嘘ってこと……?」
「まあ、そゆことだな」
こんなにめんどくさいことになるなんて思いもしなかったけど。
「冴くんに嫌いって言われてそんな傷ついてたんだな。あ、そういえば、エイプリルフールでついた嘘は、1年間叶わないらしいぞ」
「へー、そうなんすか」
知らなかった。
副会長さんは物知りだなあ。
「……1年間、叶わない……?」
「?うん、そうだ。彼女出来たって嘘ついた人は、1年間彼女出来ない、みたいな」
「……つまり、これから1年間、冴は俺の事嫌いにならない……!?」
ばっ
兄貴が顔を合わせてくるのと同時に、俺は思いっきり顔を背けた。
嫌な予感がする……!
「ねえねえねえねえねえ冴?そういうことが言いたくて、嫌いなんて言ったの?」
「んなわけねーから!知らなかったし!」
ああもう、腰にひっついてくる兄貴が本気でうざい!
「もお副会長さん、なんてこと言うんですか!!」
「はは、すまんな。そこまで楓が冴くんにご執心だと思わなくて。それに、俺の名前は副会長じゃなくて和優だ」
「かずや先輩……?」
「カズ、とかでも構わない」
「……カズさん!!」
「それでもいいけど。ふふ、弟が出来たみたいだな」
「……ふへへ」
俺も、こんなに優しい兄が欲しかったなあ…。
優しく微笑むカズさんを見て思った。
「ほんとに冴くんは良い子だな。優しいし、嫌いらしい楓の為にここまで来てくれて、ありがとうな。ここで知り合ったのも何かの縁だ、困ったことがあったら遠慮なく言えよ」
……やばい、俺、この人めっちゃ好きかもしれない。
「……はいっ、ありがとうございます!」
「……和優、そこになおれ。滅ぼす」
ガチトーンの兄貴が、脅すようにカズさんの背後に回った。
「なに冴に名前呼びしてもらってんだ?しかもちゃっかり自分も冴のこと名前呼び……お前、狙ってるのか?」
「別にそんな訳じゃないぞ」
それでもすごむ兄貴に、ため息をつき、渋々両手を上げて降参のポーズをとるカズさん。
「カズさんになにさせてんの兄貴!」
「え、さ、冴……」
「カズさんごめんなさい、うちの兄貴が」
「いや、今に始まったことじゃないから別に大丈夫だぞ」
カズさんの後ろで歯ぎしりしてる兄貴は放置だ。
それにしても。
俺が嫌いっていうだけであんなになるなんて、ちょっと驚きだ。
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