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「てことがあったんだよ、朝から災難だわ」
教室に来て、自分の席に集まった友人たちに早速朝の出来事を愚痴る俺。
「……」
俺の言葉を聞いていないかのように無言でぼーっとしているこいつは海堂透真。
幼稚園からの幼なじみで、腐れ縁で高校まで一緒になりクラスも同じだ。
兄貴が優しげな王子様というなら、透真はお姫様を守るクールな騎士様だ。
凛々しい顔立ちをしていて、礼儀正しい性格な透真は、女子からの人気が高い。
「おい、透真聞いてんのかよ」
俺が声をかけるとハッとしてこちらを見る。
「ごめん、聞いてなかった……考え事してた……」
「幼なじみの悩みよりそっちの方が大事なことだったのかよ!なに考えてたんだ!」
ぶー、と唇を尖らして抗議する俺に、透真は真剣な面持ちで話してくれた。
「朝の占い、俺のラッキーアイテムが貝だったんだけど」
「……うん……?」
「食べる貝なのか、アクセサリーとしての貝なのかわかんなくて……もし食べる貝ならどうしようって……購買に貝売ってたっけ?」
……そう、透真は見た目こそ麗しくイケメンな男子だ。
が、中身はこんな感じである。
ちょっと残念な感じというか、天然というか……うん……。
「え、いや、……購買に貝は売ってなかったと思うぞ……?」
「そうなんだ……」
「てゆーかお前、占いとか信じる人だっけ?」
「いや。興味無い」
「興味無いんかーい」
って思わずつっこんじまったじゃねえか。
興味無いならなんでそんなにラッキーアイテムを手に入れようとするんだよ。
「いや、言われたものは気になるじゃん…」
その気持ちは分かるけども。
「もうだめだ透真は。ヒロはどう思うよ」
透真を諦めた俺はもう一人の友人、ヒロこと如月紘人に話をふった。
今までずっとスマホと睨めっこしていたヒロは顔を上げる。
ヒロは高校に入ってから仲良くなったやつ。
茶髪な見た目からパリピで陽気な性格かと思ったんだが、違った。
結構ヲタクというか、アニメ好きというか、二次元に縁のあるやつだった。
「冴のお兄さんのせいで登校が散々だったって話?」
「おう」
「まあ、弟を溺愛する義兄ってよくあるシチュだし、兄と一緒に登校中、兄が女子に絡まれてめんどくさくて離れたって言っときながらも、内心は無自覚に嫉妬する弟……。うん、いいと思うよ」
「なにが!?」
なんだかよくわからないことを口早に言われてもわからないだけだって!
「冴もそんなにお兄さんにつんつんしても、フラグたってるだけだから」
「フラグたってないから!(怒)てかなんのフラグだよ!!なんもねーよ!!」
なんのフラグだかしらないが俺と兄貴の間に何かがあるなら俺はそれを消し飛ばすだけだ。
ふんす、と言い張る俺に紘人は「そうだねー、がんばれー」と生温かい目で見てきた。
「まあこれからも愚痴という名の惚気を提供しておくれ。そして萌えたい」
「なんだよモエって。火事?」
俺がきょとん、とすると、紘人は「何でもないさ」とか言ってまたスマホに目線を落とす。
「……ヒロ、スマホで何見てんの?」
「ああ、これ?透真も見る?今度好きな作家さんが薔薇本売るんだけど金なくてさ。コミケにも売るつもりらしいから誰かに買い子頼もっかなって」
「ふーん……」
ちょっと待て、それは人間の言語か。
カイコ?蚕?
バラボンってなんだ。バカボンの親戚か。
「透真、紘人が言ってること分かったの?」
「わかんない」
「わかんねーならふーんとか言うなよ!」
俺も新しいシリーズ描き始めなきゃな、身近に参考になりそうなやつがいるし、と俺をチラチラ見ながら呟く紘人は不気味だ。
透真はもう俺の話を聞く気がないのか、スマホをいじり始めた。
俺の周り、見た目と中身にギャップあるやつばっかじゃない……?
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