兄のお願い

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兄のお願い

放課後の部活が終わり、家に帰ってきた俺。 ハイスペックなのになぜか帰宅部の兄に警戒しつつ玄関からそーっと入った。 「ただいまー」 しーん あれ?兄貴、帰ってないのかな? リビングまで進むが兄貴がいない。 首を傾げていると。 どんっ 「うわっ!?」 突然後ろから何者かに抱きすくめられた。 いや、何者というより、もう兄貴しかいないって分かってるんだが。 「おかえりーーっ!!」 そのまま俺を抱き抱えて左右にゆっさゆっさされる。 首元に頭をぐりぐりされ、……なんかすんすん言ってる。匂いかぐなあほ。 おいやめろそんな子供みたいに扱うな。 てか俺、高校二年のサッカー部だぞ。 対して軽くない俺を軽々抱き上げるとか兄貴の腕力どうなってんだ。 「おい、おまえ、離せ!」 試しに足をばたばたしてみると、体は地面に降ろされた。だが抱きしめられている腕はそのまま。 「キョロキョロしてる冴、可愛かった…」 「……んっ」 急に耳元で囁かれ、くすぐったくて変な声が出る。 俺、昔から耳弱いんだよな。 耳掃除とかも、自分でやってても少しくすぐったいくらい。 てか兄貴、見てたんなら早く出てこいよ!! 「いや、お兄ちゃん二階にいたんだけど、冴の声聞いて下降りてきたら俺を探してるみたいだったし。いつもツンツンしてるくせに、お兄ちゃんがいないと不安になっちゃうなんてーーっ」 背中に兄貴の頭がぐりぐり押し付けられる。地味に痛いからやめてほしい。 「そりゃ、いつもいる奴が突然いなくなったら驚くだろ。てゆーかそろそろ離れろ暑苦しい」 「お兄ちゃんは暑苦しくない」 「兄貴は知らねーよ俺がだよ」 と抗議してみても兄貴の腕の力は緩まない。 「……ひっ!?」 あろう事か、兄貴は、俺の耳を撫でるように触ってきた。 「んっ、ちょ、なにやってんの兄貴、」 「冴がいつまでも可愛くないから、お仕置きしてます」 耳全体を少し撫でて揉んだあと、指を少し穴にいれられる。 「んぁっ……んん」 「冴ってほんと耳弱いね。お友達から耳いじめられてない?大丈夫?」 変な心配をしてくる兄貴。 完全に油断しているだろうと思い、俺は兄貴に思い切り肘鉄砲を食らわせた。 どすっ 「……なに冴、痛いんだけど」 だが、抱きしめられているせいで効果はそんなになかった!! 「俺もう腹減った。離せ。俺はメシを食べるんだ」 そう強く言うと、あっさりと離される腕。 「いーよー!離れろとか言いながらも早くお兄ちゃんの作ったご飯が食べたいなんて冴はほんとにツンデレだよねーっ」 「……」 つっこむのを諦めた俺は、手を洗いに洗面所へ歩き出す。 この兄、料理も出来る。 兄貴のパスタはほんとにめっちゃおいしい。 見た目も王子様みたいで、性格も物腰柔らかで優しく料理も上手い兄貴。 ……いやどんな設定だよ、どこの少女漫画だよそれ。 自室で着替えを終えてリビングに戻ってくると、兄貴がもう今夜の夜ご飯をテーブルに置いていた。 見てみると、今日はカレーだった。 「今日のカレーは、ちょっとスパイスが違うと思う」 るんるんしながら言う兄貴。 兄貴には悪いが、スパイスがちょっと違うって言われても正直あんまり分からない。 だから適当に「ふーん 」とだけ返す。 聞くことはしない。何故かって?ちっぽけな俺のプライドだよ。 二人で席につき、手を合わせる。 「「いただきます」」 スプーンでひと口すくって口に入れる。 んん。んまい。 普通ならここで味の説明を細かく言うものだろうが俺はそんなに語彙力があるわけでもない。言えたとしても『すごくおいしい』くらいしか言えない。 「冴、どう?」 「めっちゃうまい」 兄貴は、よかった、とだけ言い自分もカレーを口にする。 「今回のは正解だったかも」 兄貴はそう言うが、料理に正解も不正解もないと思う(なんか俺かっこいい)。 しばらく無言で食べ進めていた俺たち。 「……冴」 「ん?」 食べる手を止めてこちらに話しかける兄貴。 「……カレーはできないよね」 「???」 どゆこと? カレーは、できない? 俺が、カレー作ることはできないよねってことか? いやまあ作れないけど。ほっとけよ。 「カレーって口移しで食べさせられないよね」 「……」 何を言っているのだろうこいつは。 カレーを口移しで食わせるって聞いたことないぞ。 「何言ってんの兄貴」 「もし冴が自分でカレーを食べられない状況になったとき、どう食べさせよっかなって考えてて」 「また変なこと考えてるな……てか、口移しじゃなくとも普通にスプーンですくって口にもってけばいいじゃん」 俺がまともな答えを返すと、兄貴はむっとしてほっぺを膨らませた。 かわいくないぞ。 それをするのを許されるのは美少女だけって決まってるんだからな。 兄貴は美形だしこれを女子が見たら黄色い悲鳴を上げるだろうが。
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