無用の用途

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 こうやって他の人間とも話したら何の問題もないだろうに、とは考えたが、それを文字に起こしてはいけない。それは僕の仕事ではない。  途中で何度か休憩を挟みながら話をすること五十四分。さて締めの挨拶でも入力しようかという時になって、『ちょっといいですか』という文字が画面に浮かんだ。 『あんた、何個もアカウント持ってるだろ』  急に敬語が取れた直後、画面に僕が持っているアカウントのいくつかが羅列された。 『しかも全部買い専』『何が目的か知らないけどこれ違反だろ』『通報されたらまずいんじゃないかな』『俺の言ってる意味分かる?』  なるほど。これが本音で彼は機会をうかがっていたらしい。  困ったな。  まずいと言いながらも、彼のこの言動もまずい(・・・)のだ。僕は即座に管理人の画面から彼のアカウントをロックした。  この瞬間から彼はこのサイトで、誰の何も見られなくなる。僕が行った決済も会社から彼に渡ることはなくなった。  せっかく助けられるチャンスだったのに、彼は自分でそれを潰してしまった。  欲が出たのか、それほどに心が疲弊していたのか、はたまたもとからの性格か。何にせよ残念だ。  彼に会社としての事務的処理を施しつつ、傍らで僕の持っているアカウントを捜索して彼に這入られたバグを探す。途中でぷつぷつと画面が途切れた。
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