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その女は、とても良く笑う人だった。
笑顔が素敵で、俺なんかには到底近付けない高嶺の花……。
自宅近くにある花屋の店員として、ただ無為に働く日々。無論の事、正社員である訳もなく、ただのしがないバイトの身。
いわゆるフリーターというやつだ。
生きる目的もなく、彼女に出逢う今に至るまでだらだらと過ごしてきただけの、本当にどうしようもない男だった。
彼女はそんな俺に、目的というか生きる希望、否、目標を与えてくれた。
本当は直接彼女と接触した訳ではないから、それはあくまでも、自己満足的な感情によるものなのだけれど……。
彼女と俺は、まだ何の接点も持たない。
敢えて言うとするなら、花屋の店員とその客、それだけだ。
ある日ふらりとやってきて、それ以来必ず花屋に顔を出してくれる。
彼女がやってくる金曜の午後を、楽しみに待っているのだ。
彼女はいつもの時間に花屋に現れて、そしていつも同じ花を買って行った。
彼女が買う花は白百合――。
初めて俺が接客した日に、白百合の花言葉は「純潔」と言うのだと教えてくれた。
それを聞いた時に、彼女にとても似合う花言葉だと思ったのを覚えている。
それから彼女は、色々な事を教えてくれた。
何も知らない俺に対して、彼女は花の事をよく知っていた。
突拍子もない答えを返すのに、それを馬鹿にするでもなく、少し困ったように笑う。
そんな事を繰り返す内、彼女に少しでも認めてもらいたいと、勉強を始める事にした。
まず覚えていったのは、接客態度についてのノウハウだった。
誰にも何も教えてもらわずに、自分の力だけで接客が上手くなれば、きっと彼女にも見直してもらえる。
そう思って本屋に行き、それと名の付く本を片っ端から買い占める。
それからというもの、バイトを終えてから帰宅するなり本を開き、一心不乱に読み進めていく日々が続く。
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