その1

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その1

あんな所で彼女は一体何をしているんだろう? 既に人がほとんど居なくなった放課後の学校で俺は屋上で1人の女の子がフェンスを上り跨っているのを見上げていた。 まさか飛び降りるつもりじゃないよな? 俺は不安に思い学校の中へ戻り急いで屋上へ駆け上がる。 頼む! 飛び降りてたら寝覚めが悪い、俺が行くまで屋上に居てくれよ! こんな時大して速くない自分の走力に苛立つ。 まぁそんな事思ってる場合じゃない、仮に間に合ったとして俺に説得出来るのか? そもそも俺の早とちりかもしれない。 いい風景とかそんな感じだったりして。 様々な思いが駆け巡りようやく屋上のドアの前まで来た。 鍵掛けとけよ先生もよ! そう思い勢いよく屋上のドアを開け彼女が居た場所を見る。 居ない…… まさかもう飛び降りた? 俺は急いで下を見る。 何もない…… 飛び降りてなかった? じゃあどこに? 俺ここまで来るまでに誰ともすれ違わないで来たぞ? まだ屋上に居るのか? 辺りを見回すが人影はない。 オレンジ色に染まった空の下俺は思った。 「まさか幽霊とかじゃないよな?」 「失礼ね…… 誰が幽霊ですって?」 いきなり背後から声が聞こえビクッとして後ろを向くとそこには俺をジトーッと見る女の子が居た。 遠くてよくわかんなかったけどさっきフェンスに跨ってた子かな? 屋上の風で靡く髪を彼女は手で押さえ俺を怪しむかのように見ている。 長い黒髪に若干気の強そうな顔に白く透き通るようは肌、程よく艶がある唇に小さい顔、今は俺をジト目で見ているがぱっちり二重の目。 俗に言う美少女じゃないか…… 「お前さっきフェンスの上に居なかった?」 「見てたの? はぁ…… だったら何?」 「いや、飛び降りるんじゃないかとヒヤヒヤしてここに来た」 そう言うと彼女はジト目からいきなり肩を震わせていた。 なんだか笑いを堪えているようだ。 「ププッ、 あはははッ! そんなわけないでしょ? こんな所から飛び降りたら下手したら死なないで痛い思いするかもしれないじゃない」 確かに3階建ての校舎から落ちても即死するとは限らない。 打ち所が悪ければ逆に苦しむ羽目になってしまう。 そんな事はどうでもいいが。 だってやっぱり俺の勘違いだったし。 「あー、アホらし。 てか君って上野君にいつもくっついている…… なんだっけ?」 「ああ! 思い出した。 お前の隣のクラスの美人で有名な美咲 えりなだろ? てかなんだっけって失礼だよな、俺は足立 健斗(あだち けんと)だ。 それにだったらこんな所で何してたんだよ?」 「私が美人だからって人を物珍しい動物みたいに見るのやめてくれる? 足立君には関係ないでしょ?」 彼女はそう言い屋上から出ようとしたがピタリと止まった。 そして何か俺に言いたい事でもあるようにモジモジとしていた。 美咲って美人だけどなんかおかしな奴だな。 さっきのフェンスに上っていた時といい今といい…… 「足立君って上野君と仲良いんだよね? 結構一緒にいるの見掛けるし……」 「それが何だよ?」 「私の事何か聞いた事ある?上野君から」 「いいや、特に聞いた事ないけど?」 そう言うとなんだか美咲はガッカリしたというかやっぱりそうなんだという影のある表情を見せた。 上野がなんだっていうんだ? 「ねえ足立君、これから上野君の事私に逐一報告してくれない?」 「はぁ!? なんでそうなるんだよ? お前上野のストーカーか?」 「本当に足立君って失礼ね! 私がそんな事するように見える!?」 だったらそんな妙な事俺に頼まないような気がするけど? だけどなんか美咲は焦っているように感じた。 藁にも縋る思いというか。 「なんだよ、上野の事好きなのか?」 「だったらなんだっていうのよ!?」 「あいつこの前告白されたうちのクラスの新月 花蓮(にいつき かれん)って子と付き合ってるんだぞ? お前がいくら美人って言っても新月も相当美人だし第一上野って浮気とかしないと思うし」 「何よ? 私って上野君の浮気相手だって言いたいの? 最低!」 美咲はこちらをギロッと睨む。 だってお前が変な事聞いてくるからだろ? なんで俺がそんな事頼まれなくちゃいけないんだ? 「なぁ意味わかんないから理由くらい話せよ? そしたら協力出来るかもしれないだろ?」 「言ったって信じてもらえないし……」 「それじゃ話が進まないだろ?」 「うぅ…… 笑わない?」 え? 笑うような事なのか? って思うが彼女は至って真剣な表情だ。 なので俺はコクンと頷いた。 「私…… 半年以内に好きな人に告白して付き合えなきゃ死んじゃうの!」 「…………」 美咲の真剣な告白とは裏腹に俺と美咲の間に薄ら寒い風が吹く。 ああ、美咲って見た目良いのに凄く残念な子なんだな、こんな事言い出す奴だから上野の事逐一報告とか言うのも納得だわ。 「はぁ〜、言っちゃった……」 「うん、そうだな。 じゃあ俺は聞かなかった事にしてあげるからこれで」 「ちょっと待ちなさいよッ! 足立君私の事変な女だと思ってるでしょ!? あー、そうです! それは認めます」 「え? 自覚あるんだ?」 こんな美人な人でモテそうなのに性格残念なんだな。 なんか関わっちゃいけない人に関わった気がする、本当に美人なのにもったいないな。 まぁなんでもなかったという事で俺はもう帰ろう。 「じゃあ今度こそ帰るわ、変な妄想癖直した方がいいぞ? じゃな」 「……こ、このッ」 俺が立ち去ろうと後ろを向いた時彼女に肩を引っ張られバランスを崩し彼女に覆い被さるように倒れてしまった。 そしてパシャッという音が聞こえた。 彼女の片手を見ると携帯が握られていた。そして俺と彼女の今の状態をしっかりと撮っていた。 「な、何すんだよ!?」 「この写真見られたらどうなると思う? 私足立君に襲われちゃったなんて言ったらどちらを信じるでしょうね? ふふッ、そんな事になりたくなかったら私に協力しなさい?」 「自分のやってる事わかってんのか? 上野の事好きなくせにやる事おかしだろ! それにお前みたいな変な奴の言う事なんか誰が信用するかよ?」 「あら、言うじゃない。 目的のためには手段なんか選んでられないわ。 てか足立君なんかとキスして私が何か思うと思ってる? 信用? 私は普段いたって真面目で美人でみんなから一目置かれる生徒よ? それに男の足立君より女の私の方が言う事信じてもらえそうだしね」 こ、こいつ変な奴だし性悪だ。来るんじゃなかったこんな所、くそ…… 「私これでも真剣だしさっきの話だって本当なの! だから私に付き合ってもらうわよ?足立君ごめんね」 彼女はニヤリと俺に微笑んだ。 こんな奴じゃなかったら惚れてしまいそうな笑顔で……
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