その2

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その2

屋上から美咲と一緒に戻ると先生がやってきた。 え? なんか俺に向ける視線がおかしいぞ。 「こら、お前らこんな時間にこんな所で何やってる!?」 「な、何もしてませんよ? なぁ美咲?ってあれ……」 「せ、せんせぇ、私、私…… ひぐっ、うぐッ」 な、泣いてやがる…… この野郎何してんだこの状況で。 そんな事したら俺って…… 先生を見ると美咲の様子を見てまさかこいつという顔で俺を見ている、マズい、このバカのせいで俺の学校生活が地獄になってしまう。 「お前ら…… 何してたんだ?」 「いや、俺は何もッ」 「コンタクト落としちゃって彼に探すの手伝ってもらってたんです、よく洗わないで付け直したからゴミが入ってたみたいで」 美咲はそう言い先生から見えない角度で俺に舌を出して笑ってみせた。 私の言う事聞かないとこうなるわよ? とでも言いたげだ。 なんて女だ…… 「そうか、そういう事か。 見つかったんならいつまでも学校にいないでさっさと帰れよ」 「はーい! 行こう足立君」 「…… は〜い」 美咲がこっちよと言って俺を連れて行く。 てかなんでこいつについて行かなきゃいけないんだ? でもさっきみたいな事されるとえりなの言う通り俺が疑われるようだ…… 女ってこういう時得だな。 そして美咲が連れて来たのは学校の売店だった。 彼女は自販機の前でさぁちょうだい? という感じで俺に手を差し出してきた。 「それは何?」 「私泣いちゃったら喉渇いちゃったわ。  だからお願い足立君!」 「百歩譲って協力したとしてもお前の奴隷になんてなる気ないし嫌だね!」 「こ、こんな綺麗で可愛い私が切ない眼差しで足立君を見つめて頼んでいるのに?」 え〜、こいつ自分で言っちゃってるよ。 可愛いってのは事実だけどこんな拗れてるような奴だってわかると至極ウザい…… 「お前って見た目は美人でも性格はブスだな」 「酷い! 女の子に言っていい事じゃないわ! 罰として奢りなさい」 「そんなんじゃ上野に嫌われちまうぞ?」 「え!? それは嫌ッ!」 上野の名前を出した途端美咲は表情が一変した。 上野の事がそんなに好きなのだろうか? でもどっちにしたって上野は新月ともう付き合ってしまってるんだから今更遅いような気がするけど。 美咲に言われたからというわけでもなく俺も喉が渇いてきたのでお金を取り出し自販機に入れるとすかさず美咲はポチッとボタンを押し俺のお金でジュースを買った。 俺はコーヒーを買おうと思ってたのにミルクティーが無情に下りてきた。 「ふふッ、ごちになりまーす! なぁんだ、本当は買ってくれるつもりだったんだ? 優しいじゃない」 「この野郎! 今のは俺も飲みたくなってきたから入れたんだ! 返せよ!」 すると美咲がミルクティーを開け一口飲んだ。 そしてそのミルクティーを俺に渡してきた。 「はい、足立君も飲んでいいわよ」 「へ? これを?」 これは…… 間接キスだ。 でもこんな奴にそんな事でたじろいでいると。飲み掛けのミルクティーをじっと見つめていた俺は美咲に視線を向けなおすと思った通りニヤニヤしていた。 「あれれー? もしかして、もしかして私の口を付けたミルクティーを飲んだら間接キスになっちゃうとか思ってるのかなぁ? いけないんだぁ! 私もう心に決めた人がいるのに」 「うるせぇな! いけないのはお前の方だろ!」 俺は仕方なく財布からまたお金を取り出し自販機に投入した。 すると美咲がまたふざけてボタンを押そうとしたので俺は咄嗟に美咲の手を掴んだ。 「きゃッ!」 「あ、悪い…… て、なんで俺が謝るんだよ!?」 「せ、セクハラ! 私があと半年の命だからって何してもいいってわけじゃないのよ!」 「え? それまだ言うの?」 こいつ本当に意味わかんねぇ…… 大体本当に上野の事が気になるのかすらわかんなくなってきた。 「で? 上野の何を報告してもらいたいんだ?」 「え? 協力してくれるの? 流石足立君話がわかる! まぁ協力してくれなかったら写真で脅すけど」 「お前…… 」 まぁまぁと美咲は俺を宥め上野の事となりまた真剣な表情になった。 どんだけ好きなんだよ? てかそんな好きなら新月の前に告白すれば良かったのにな。 「報告って言ったけど上野君には私の話題を織り交ぜて今後話をする事! 例えば上野君の前で隣のクラスの美咲って子凄く可愛いよなとか! とりあえず上野君に私を印象付けて」 「それ上手く行くと思ってる? 多分そんなの聞いてもお前その子に気があるのか? なんて逆に言われるのがオチだと思うけど?」 「そうならないように足立君が工夫しなさいよ! もし足立君がヘマして上野君に嫌われるような事でもあったら私本当に死んじゃうんだからね!」 「ツッコミ所満載でもうどこから突っ込んでいいのかわかんなくなってきた……」 ただそう言う美咲の表情は至って真剣なので何か精神的にヤバいものでも抱えているんじゃないいのだろうか? と感じで背中に冷たい汗が流れ落ちる。 新月はとても優しく気配りもできて見た目でも美咲に負けないくらいの美人なのでもし美咲がこんな奴だと知ったら上野だって新月のがいいって言うに決まってると思う。 そんな新月に張り合えるのか? まぁ俺は無頓着だからよくわからないけどこいつは周りには上手く誤魔化して良い子を演じているようだけど所詮メッキだ。 上野に迫ろうとすればするほどこいつのメッキは剥がれて行くのではなかろうか? だけどそれを眺めるのも楽しいかもしれない。 半年の命? それも俺の気を引くための嘘だろ? 「まぁ仕方ない、弱みも握られたし協力してやるか」 「本当!? やったぁ!」 美咲は俺の手からコーヒーを奪い取りグイッと飲んだ。 あ…… 間接キス。
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