プレパラート

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プレパラート

 ほっぺの内側の細胞をとって、観察する実験をした。  シュウトはその日、こっそりプレパラートを持って帰った。その日はなぜかプレパラートを割ってしまう生徒が多くて、先生は枚数が足りないことに気づかなかった。シュウトのやることは何でもうまくいく。昔からそうだった。シュウトが何かしようとしなくても、自然といいように運んで、大抵すごくうまくいく。そういう風に、生まれたときから決まっているのだ。  シュウトは貯金箱を壊して、顕微鏡を買った。  これで毎日、ぼくのほっぺの細胞を観察するらしい。  ときどきぼくは細胞のことを聞いてみた。綿棒の先にくっついて、唾液に包まれてお嫁にいったぼくの細胞。元気にしているかと聞くと、シュウトはいつも笑顔でうなずいた。 「元気だよ。離れているけど、やっぱりユウの一部なんだな。成長して、日に日にユウに似てくる気がする」  シュウトは、ほっぺの細胞がそのうちもう一人のぼくになるかもしれないと言った。ユウがもう一人いたら嬉しいな、とも言った。 「目下の目標は、ユウを100人にしたい」  それはちょっといやだな、とぼくは首をかしげた。 「そうしたら、愛情100分の1?」  シュウトは笑った。 「違うよ、100倍だよ。俺はユウが何人いたって、同じだけ愛せるんだよ」
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