第二章 Ⅴ節 アルヴァンド河を越えて

15/15
前へ
/542ページ
次へ
 捕虜たちは両肩を押さえられ、頭を下げさせられる。そして、兵士たちがそれぞれに剣を抜き放つと、高くかざした。 「や! 止めてくっ──」  血飛沫が断末の悲鳴の代わりとなって中庭に飛び散った。3歩離れていた与一の頬にも血糊が張り付き、垂れた。  落ちた頭が、まだ動いているでろう心臓の拍動に合わせてどろりと二つの太い血管から流れ出る赤い粘液に沈んでいく。溢れた鮮血は、石畳の継ぎ目を流れて与一の足下に血溜まりを作った。  与一に言い知れない恐怖と、言葉にならない悲しみが湧いた。 「ファル……それで良いのかよ」  歩き去るファルシールの背中に小さく投げ掛けた言葉に、ファルシールは答えなかった。
/542ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加