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ファルシールは目の前で北叟笑むこの狡猾な男が商人であることをようやく思い出したのだった。
「今は何も」
イグナティオは含みを持たせておいて何も言わない。それがファルシールの判断を難しくした。
この男の口車に乗せられてここまで時間を掛けてやって来てしまった。時間的余裕はもう無い。
ファルシールはイグナティオの馬に乗る与一の熱にあえぐ姿を見た。
「......そなたの要求、何でも応えよう......」
「しかしここには誓約書がありませんなあ。どうしたものか」
「良い......誓おう。繁栄と契約の神ジワーディンに誓い申し上げる」
何を求められるかも分からない状況で相手の要求を全て飲むと断言することは、耐え難い無条件の敗北を意味した。ファルシールは唇を固く結び、苦悶に耐えるのだった。
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