第一章 Ⅲ節 イーディディイールにて

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 貧困区はひとつの通りを抜けるとすぐに現れた。  全てのものが粗末で、人のいなくなった建物や、屋根の崩れた建物などに布切れや戸板で覆いをして"家"の(てい)を成しているようだった。砂地の地面には野犬の遺骸が転がっている。  ファルシールはその光景がホスロイの町の惨状を思い出させて気分が沈んだ。 (この男どこまでもタチが悪い......)  イグナティオは背後から向けられている侮蔑の視線を笑みで殺して、馬を止めると、馬から降りて与一を抱えた。 「......ここは何処だ」 「貧困区と呼ばれる場所です。罪人やならず者たちが棲む悪所とも言いますな」 「おまえ......っ!」 「品のある口調が崩れておりますよ? なに、心配なさらずとも契約がありますので取って食ったりはしませんよ」
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