第一章 Ⅲ節 イーディディイールにて

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 オトコオンナはイグナティオを放り出すように降ろした。 「背中のが熱を出している。倒れてから一刻は経っている。こちらの"貴人"のご依頼だ」  ファルシールは一瞬、こちらを一瞥したオトコオンナの目に光が走ったように見えた。 「なるほどね。中へ連れてらっしゃい」  オトコオンナはイグナティオに入るよう言うと、自分は別の部屋へと消えていった。 「あれは何者だ」  ファルシールはイグナティオに問うた。 「私の知っている最高の医者にございます」  イグナティオは礼節を(とお)してはいたが、もはや口だけであった。 「──余は、そなたを信じるぞ」  そう静かに言い放ったファルシールの(あお)い目は、イグナティオの目の奥の曇りを鋭く刺した。イグナティオはその言い知れぬ強い圧をもつ真っ直ぐな瞳に、隠している下心を突かれ眉を潜めた。 (なんだこのガキ......)
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