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オトコオンナはイグナティオを放り出すように降ろした。
「背中のが熱を出している。倒れてから一刻は経っている。こちらの"貴人"のご依頼だ」
ファルシールは一瞬、こちらを一瞥したオトコオンナの目に光が走ったように見えた。
「なるほどね。中へ連れてらっしゃい」
オトコオンナはイグナティオに入るよう言うと、自分は別の部屋へと消えていった。
「あれは何者だ」
ファルシールはイグナティオに問うた。
「私の知っている最高の医者にございます」
イグナティオは礼節を徹してはいたが、もはや口だけであった。
「──余は、そなたを信じるぞ」
そう静かに言い放ったファルシールの碧い目は、イグナティオの目の奥の曇りを鋭く刺した。イグナティオはその言い知れぬ強い圧をもつ真っ直ぐな瞳に、隠している下心を突かれ眉を潜めた。
(なんだこのガキ......)
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