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イグナティオは返事をするでもなく与一を薄い帳が幾重にも垂らされた不思議な匂いのする香が焚いてある部屋の奥に連れていった。ファルシールも決心して中へと続いた。
部屋には帷帳で細かく区切って床に筵を敷いただけの小さな寝床らしきものが幾つかあった。ファルシールはそれらを気掛かりに思いながらも、イグナティオの背中を追う。
突き当たりまで進むと、帷帳で区切られた少し大きめの空間が現れた。応接間とでも言うように東国風の丸椅子と円卓が使い古しのろうそくに囲まれて小綺麗に並べられている。その奥に一際広くしっかりとした寝台があった。
イグナティオは与一をその寝台に寝かせると、疲れたように手前の丸椅子に座り込んだ。
しばらくして、先ほどのオトコオンナが盥に水と布を浸したものを持って帳を潜った。
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