第一章 Ⅲ節 イーディディイールにて

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「全て、とは欲張りだな」 「先刻快くご契約下さいましたので甘えさせて頂きました」  ファルシールは嫌なことを思い出した。確かに契約を快諾したようなものだった。神前にての契約は(ないがし)ろに出来ない。 「......良かろう」 「以上になります」  イグナティオは言い終わると手をさげた。 「それではさっそく馬の様子を見て参ります。後の事は(やつ)が何とかしますでしょうから」 「そうすると良い。大事な"そなたの"馬だ。数頭逃げでもしたら報酬が減るからな」  ファルシールは嬉々としているイグナティオに微力ながら毒づいた。馬を全て持っていかれることが惜しかったのもあったが、このような男に良いように転がされた自分の情けなさをぶつける相手が欲しかったのもあった。  イグナティオは一礼すると帷帳を潜って応接間を後にした。
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