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太陽はへシリア山脈の山の端からようやくイーディディイールへとその光を落としていた。イグナティオは小屋を出ると器用に寝転ぶ浮浪者たちの隙間を縫って、もらい受けた馬のところへと向かった。そんなイグナティオは報酬を目の前にして喜ぶでなく険しい顔つきであった。
(あの銀髪のガキ。間違いなく皇族だ。どこぞの貴族のぼんぼんならまだいけたが、皇族ではまずい。非常にまずい)
ホスロイの峠道で思い付いた企みでこの貧困区へとファルシールらを連れて来たが、ここへきて実行に移すことを躊躇った。相手が皇族かもしれないためである。
(あのガキが下げていた短剣の鞘の黒獅子の金細工、間違いなく皇家の紋章だ)
小屋に入って間近で見て確信した。
イグナティオは職業柄、様々な者と取り引きをするので、シャリムの皇族に関することも勿論知っていた。黒い獅子は初代皇帝アル=シャースフの異名である。シャリム皇家はその獅子の頭のモチーフを紋章として掲げている。そのような紋章をあしらった物を使うことを許される者は、皇族の中でも本流の血族の限られた者のみであった。
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