第一章 Ⅲ節 イーディディイールにて

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 イグナティオがふたりを連れ込んだのは、貧困区にある売春小屋であった。熱を出している方は適当な奴隷商に売り付けるとして、銀髪の方は見目が良く男であろうと欲しがる"物好き"は多くいるだろうと考えていたが、皇族ともなればそうもいかない。ここイーディディイールは皇都の目と鼻の先であり、下手をして宮廷に見つかって保護されでもすれば、自分の足がつくのは確実である。  何より死罪になってまで得たい金ではない。それよりも皇族との繋がりを持つことで、更なる(とみ)が得られる方を選ぶのは商人として当然の判断であった。  その上で、イグナティオは迷っていた。  現行の皇族の立ち位置は、危うい砂の塔の上にあった。 (諸侯の離叛、権威の形骸化、度重なる東方遠征、昨日の敗北。ひとつ木片を抜けば積み木を倒すように崩れ散るような国だ。従来のように安定した後ろ楯として期待を掛ける事が叶わぬ)
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