71人が本棚に入れています
本棚に追加
イグナティオがふたりを連れ込んだのは、貧困区にある売春小屋であった。熱を出している方は適当な奴隷商に売り付けるとして、銀髪の方は見目が良く男であろうと欲しがる"物好き"は多くいるだろうと考えていたが、皇族ともなればそうもいかない。ここイーディディイールは皇都の目と鼻の先であり、下手をして宮廷に見つかって保護されでもすれば、自分の足がつくのは確実である。
何より死罪になってまで得たい金ではない。それよりも皇族との繋がりを持つことで、更なる富が得られる方を選ぶのは商人として当然の判断であった。
その上で、イグナティオは迷っていた。
現行の皇族の立ち位置は、危うい砂の塔の上にあった。
(諸侯の離叛、権威の形骸化、度重なる東方遠征、昨日の敗北。ひとつ木片を抜けば積み木を倒すように崩れ散るような国だ。従来のように安定した後ろ楯として期待を掛ける事が叶わぬ)
最初のコメントを投稿しよう!