第二章 Ⅴ節 アルヴァンド河を越えて

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「おい待てよ! もう良いだろ! 人の命はそんなに軽くねえんだぞ!!」 「……12人だ」  与一は剣を振り上げたファルシールにしがみつき、そう言ったが、ファルシールは暗い声で小さく返す。 「何が……」 「私の妻たちだ。12人居る。ちょうどこの者らと同じ数だ」 「……それが何だって──おわっ!」  ファルシールは与一の胸ぐらを掴むと、捕虜たちの前に突き出した。与一の鼻先に跪かされた捕虜たちが掠る。 「見ろ。ここに居るのは何だ。私の妻か? 守るべき民か? 違う。ここに居る者たちは、私から私の全てを奪った者たちだ。私の妻を奪い、私の兄弟を殺し、国を陥れ、多くを殺した極悪人だ。殺してはいけぬ道理がどこにあるか!」  与一は鼻先で震える捕虜の男の顔から思わず目を逸らした。懇願する男の顔と、男たちの主が起こした波乱を比べて、直視出来なくなった。  もちろん、部下であるこの男たちが直接なにかをしたのを見た訳ではない。しかし、初めの町ホスロイで山積みにされた住民の屍や、皇都で起こった虐殺、その元凶の一味であることには変わりなかった。  それに、ファルシールにとって最も大事な12人の妻を奪い、(むご)く殺そうとしている、そう考えればこの男たちにファルシールが怒りの矛先を向けるのも無理もない。
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