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与一には、明確にファルシールの殺意を挫ける反論が出来なかった。
そこに輪を掛けてケイヴァーンは冷たく言う。
「殿下、ご裁定を」
「ケイヴァーンさん……! 何で止めないんですか!」
「賢者よ。皆、そう望んでいます」
「……っ!」
与一が周りを見回しても、周囲を囲む兵士の誰ひとりとして捕虜たちに憐れみの情を向ける者は居なかった。捕虜たちは、彼らの敵なのである。
「それに、決めるのは主君です。主君は法です。善悪は法が決めます」
ケイヴァーンの眼中に与一はなかった。
ファルシールが全てを決める。それがこの世界の秩序なのである。それは、与一こそがこの世界の理を解し得ない異邦人であることを痛いほど鮮明に浮かび上がらせていた。
与一はファルシールの手を力なく放し、引き下がった。これ以上、何も出来ない。
「──下す。捕虜は要らぬ。残らず首をはねよ」
冷たく言ったファルシールの言葉に捕虜たちは震え上がった。
「お、お助けを……っ! 我らはただセシム様の命で……!」
「どうか……!!」
ファルシールは喚く捕虜たちに背を向けた。それを合図に、ケイヴァーンは囲んでいた兵士たちに命を下す。
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