1本の薔薇

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花屋に入るのは気恥ずかしい。 滅多に来ないものだから余計かもしれない。 だから、なるべく人の入っていない花屋を選んで早く用事を済ませようとした。 「すみません。花をください。」 花屋なのにおかしな注文だなと言ってから気が付いた。 だからか店員はおかしな客だというように目を尖らせた鋭い視線と嫌そうな表情を浮かべている。 その後すぐにどの花が良いか営業スマイルで聞いてきた。 「この薔薇を…。」 近くにあった真っ赤な薔薇を指差した。 「お幾つ包みましょう?」 「…1本で。」 「プレゼントですか?どうせなら、もっと多くの数を包んだ花束の方が華やかですよ。」 「いえ、あまり持ち合わせも無いもので。」 その返答に一瞬顔を曇らせてすぐに1輪だけ薔薇を取り包みだす。 あまりにも顔と態度に出過ぎじゃないか。 だからあまり客が寄りつかないのだろう。 まあ、人のことを言える程愛想良くも無いのは自分もか。 そう思いながら待っていると意外にも丁寧な包装で渡してくれた。会計を済ませるとその一輪の薔薇を鞄で隠すようにして持つ。 店の外に出ると皆足早に帰るから見てくる人はいないもので、その事に少し安堵しつつ家路についた。
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