おみどう

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祭壇の上の 天井まで届くステンドグラスをすり抜けて 赤、青、緑、黄色の光が 絨毯に写っているのを踏みしめながら 夏樹はリアンの両手を掴んだまま ソファの陰に頽(くずお)れた。 2人のタブリエが 嵩高(かさだか)の黒い花のように広がる。 リアンはぐったりとして 肩をソファの足元に寄りかからせて 目を伏せ、口元だけで微かに笑った。 「なんで笑うの?」 「だって…」 夏樹は、リアンとだいたい同じくらいの背丈だが ずっとしっかりした体つきだった。 その体をぶつけるようにリアンに押しつけ タブリエの首のボタンを外し ブラウスの襟を開いてゆく。 「笑わないで リアンが好き」 楽しい、とは違う。 でも下腹から鳩尾の辺りがざわめく。 だのに 去年の夏に初めてキスされた時のような 痺れるような感覚はない。 だから、冷静に 夏樹の目をこっそり見てる。 自分の感覚に酔うより 我を忘れ、切羽詰まった夏樹の目を 見ている方が楽しいなんて リアンは自分が イヴをそそのかす蛇のような気もする。 「ねえ、楽しくないの?」 夏樹がかすれ声を殺して訊くけど リアンは なんて答えていいのかわからなくなって 黙って目を閉じた。
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