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両脇にヒマラヤ杉の並ぶまっすぐ伸びた白い道が
校門から、古い一号校舎に続く。
一号校舎は戦前に建てられた煉瓦造りで
正面玄関はロマネスク様式のファサードになっている。
そのレンガのファサードに蔦が這い上り
その下の、アーチ型のトンネルの入り口に
垂れ下がって風に揺れている。
ふっと大きな風が吹いて
カーテンのような蔦が捲れ上がると
ファサードに貼り付けられた青銅のプレートが見えた。
「友のために命を投げ出すほど大きな愛はない
ヨハネの福音書15章13節」
古いプレートには
この学校を運営する修道院の
設立の理念である聖書の言葉が刻まれていた。
揺れる蔦の下をくぐってトンネルに入ると
急に、空気がひやりとした。
そして絶え間ない小さな水音。
石畳の通路に
12の大理石の水盤が並んでいた。
それぞれの水盤には
イエズスの12使徒の名が刻まれているが
気づいている生徒は少ない。
水盤の上にはそれぞれ真鍮の栓があって
捻ると冷たい水が
美しく弧を描き水盤に落ちた。
ここは「ルルドのトンネル」
学院で、そう言い習わしている水場だった。
登下校の度に少女たちはここを通り
校庭での体育が終わった後は
手を洗い、水を飲んだ。
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