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Karte Ⅲ
花が綻ぶように笑んだ相手に無意識に見惚れてしまう。
全身を包む、初めて感じる温もりと。
鼻孔を掠める、バニラの甘くて色っぽい香り。
「林檎ちゃん。」
耳元で囁かれる私の名前は、艶のある声に彩られている。
気が付けば私は、その美少年に抱き締められていた。
ドキリ
条件反射みたいに音を弾ませた私の鼓動が、体内に大きく響いている。
「え……え?」
「漸く会えたね、長かったなぁ。」
えーっと、今って何が起きてるの?
この状況が全然理解できないよ?
「僕ね、ずーっと会いたかったんだよ林檎ちゃん。」
「あの…。」
「ふふっ、やっぱり実物の方が何億倍も可愛いね。」
「えっと…。」
「つーかまえたっ。もう絶対放さないんだぁ。」
何も呑み込めていない私を置いてけぼりにして、次々に言葉を落としていく彼が、私の手首をぎゅっと握って破顔する。
その姿は私が夢にまで見た少女漫画の男の子みたいに綺麗で、眩しくて、煌めいている。
「林檎ちゃんはもう逃げられないよ。」
女として圧倒的敗北感を覚える程の可憐な微笑を浮かべる相手は、さっきから口調や表情とは裏腹に放つ言葉が何処となく狂気めいている。
ちょっと待って。
本当に待って。
色々言いたい事はあるけれど、一番最初にこれだけは言わせて欲しいの。
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