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コンコンっと、ノックをして社会資料室のドアを横にスライドする。
開けるとコーヒーの匂いと微かな甘い匂いがした。
少量の熱気を含んだ風がドアの向こうへと流れていく。
「先生…」
私がそう声をかけると、この部屋の主がゆっくり私を見上げて
「どうした?鈴本蘭」
と、言葉を返す。窓口からさす光が先生の黒い髪を反射して光は散らばっていく。
先生の声音に色はなく、淡々としたその口調に、詰められない私たちの距離を思い出しため息をついた。
それが合図であるかのようにいつも通りではない放課後を始める。
今日こそ教えてもらわなくちゃいけない。
君影草の秘密を。
私たちに残されたこの秘密の時間は決して長いとは言えないから。
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