倒れた日

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 2度目の目が覚める感覚を覚えた。朝いつも通りの時間に起きて、朝ごはんに母さんがレンジで温めてくれた冷凍食品のミートボールを食べていた。寝起きのぼんやりとした動かない頭でニュースを見ていたら、テレビのチャンネルが切り替わるようにパッと。もう一回目が覚めてフローリングにべたっと座りながら母さんと父さんの声を聞いていたのだ。 何があったかなんてわからないまま時計を見て長針が6ところに、すぐ左に短針もあったから7時30分くらいかなあ、うちの時計は早いから、なんてことが頭を占めていた。今考えれば脳に酸素が行っていなかったのだろうと分かる。 「千里、救急車呼んだからね」 「運んでくれるから玄関まで行こう」 「動かさずにここで座ってた方がいいって」 「でも玄関までは行くんだし、そこで座って待ってれば」 聞こえてくる声をそのまま受け止めて自分の状態を確認しないまま玄関までふらふらと歩いていったのを覚えてる。無意識に母さんの声を優先したのだろう、覚束無い足取りと意識を心配してくれた父の声はうっすらとしか覚えていない。 冷たい玄関で座ってたら救急隊員の人が2人来て、青いシートに私を座らせた。そうやって2人がかりで持ち上げてドアの外にあるストレッチャーに寝かせる。私の家はマンションだったから、頭に直接ぶつかるような救急車のサイレンを聞いて近所迷惑かなあと思っていたのだ。2階からエレベーターに乗せられ1階に降り、スロープを使ってエントランスをぬけるのを、ずっと天井を見ながら感じていた。 付き添いに母さんが乗り込んで隊員が搬送先を探し始めた。もう1人の隊員が私に質問をしてくるからとりあえず答えた。 名前は。生年月日は。住所は言えますか。今日は何月何日ですか。 最後だけ分からない。他は条件反射で答えたものの、いつもあやふやな日付がその時だけは、秋のような赤色のイメージしか浮かばなかった。だから10月かな?あれ、11月?そんなことを口走っていた気がする。正確な日付は今でも覚えてない。自分で適当に秋にあった出来事だと決めているだけだ。 搬送中にようやく現状を把握できた。朝ごはんを食べている最中に突然椅子から崩れ落ち、床に倒れた私は白目を向いて痙攣していたそうだ。息をしておらず気絶している私を見て、数十秒だったのが体感時間は10分にも感じたらしい。 その時の記憶は無い。朝ごはんを食べ始めてから床に座った状態で目が覚めるまで、絵本のページが抜け落ちているのに気づかず読み進めたみたいだった。抜けたページは見つかることのないまま絵本として完成している。 自分が好きな小説や漫画、そしてテレビなどでしか聞かなかったことを体感する日が来るとは思わなかった。そしてもう体験したくないと思った。 記憶がないまま人伝に知るのは、自分ではない誰かが存在したようでとてつもなく恐ろしいことだ。
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