ダイの遅れ

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ダイの遅れ

ダイは卸、主に、エスニック系料理店に必要な食料品を扱う業者の荷下ろしと運搬をするのが仕事。きつい肉体労働に言葉が通じない多国籍人種が入り混じった現場は、労働者の離職率が高く、慢性的な人手不足で、二年目をむかえたダイは熟練者扱いされている。 滅多にシフト交代の希望を出さないダイだが、この日は超がつく久しぶりのレース参加したく、交通網の混み具合で就業時間に変動がある運搬ではなく、定時に倉庫を出られる荷下ろし担当への願いを届け出ていて、受理されていた。しかし、バイト感覚の労働者が突然の当日ブッチ。業界では珍しくない事態。当たり前のようにダイに追加の運搬業務が依頼される。断ってもよかったのだが、一人で子育てをするようになってからメキメキと芽生え始めた社会人としての責任感に「時間に間に合うのなら」と承諾。 ダイの言う「時間」とはレースの時間ではない。ベビーシッターの予定だ。この日は二人のベビーシッターをブックしていた。仕事の間にみてくれるベビーシッターは経験豊富で、信用が厚く、年間を通して契約している。急な延長の我が儘を文句なく聞いてくれる理解者だ。だからこそ、できる限り約束を守ってあげたい。これほど理解をしるしてくれるベビーシッターに今後であえると思えない。仕事延長が決まった時点でいち早く連絡を入れて確認した。 早朝からの荷下ろし作業は午後二時に終わり、運搬作業をしても大丈夫だと判断した。ダイからの連絡を受けて、私用があったベビーシッターも、予定を余裕を持って夕方六時に変更してくれた。 レースの時間に預ける予定になっていたのは昔の仲間の夫婦で、子供一人も二人も変わらないと引き受けてくることになっていたが、彼らは外でご飯を食べる予定があり、引き渡し時間が定められていた。 今となってはギリギリ間に合うかどうか。 会社の責任者は「大丈夫だろう」というが、現場をわかっていない無責任な発言だった。 「参ったな」 四時過ぎ。道が進まない。道路交通法の改正で、ガソリン車が王様な時代はついに終わった。それに伴って、ガソリン車が使う車線と電気や他のエネルギーを動力とする移動手段が使う車線を分けて、既存する道路幅をシェアしないといけない。 十五年前に政府が打ち出した一つの案の結果だ。 ガソリン車用の道幅はどんどん狭められている。 新しい動力車の為の新しい道路作り、拡張作業が急ピッチに進めらている。 ダイの会社は改正案全てに反対し、現政府に不満を持ち続けた。会社の経営状態も悪く、電気自動トラックに買い換えるなんて考えには至らなかった。経営陣の時代について行こうとしない姿勢が労働者には受け入られず、もっと楽に仕事ができるところはいくらでもあると離れていってしまう。 「っ進めよー」 ダイは間に合うと思った時間にも間に合わなくなりそうでイラつき始めた。 狭められたガソリン車用の道だけが進まない。 電気自動車トラックだったら間に合っていた。 「せめて一台くらい買えよなー」 「あーあ、安請け合いするべきじゃなかったなー」  不満がこぼれる 一年前に世界のガソリン車利用者数を他動力の移動手段数が超えている。 「ったく、ガソリン車車線、空くのは一体いつなんだ」 利用率が減少していくので、ガソリン車車線は空き始めると専門家は口を揃えて発言していたが、減少に伴い車線を潰されているので専門家の予想通りにはいかなかった。信号の優先順位も意図的に操られている。 結局、一人目のベビーシッターからラッセルを引き受ける六時を過ぎてしまった。何度も連絡がくるが、仕事中のダイは答える事もできない。 三十分後には二人目のベビーシッターからの連絡も入る。最悪の状態だ。 運搬先にはたどり着いたが、届け先での仕事もスムーズにいかない。品が足りていなく、クレームを受ける。まったく踏んだり蹴ったりだ。 「今日は諦めるしかないかな」 今度はいつだろうか。レースは開催されるが自分の都合が合わない。 今日いかない。それは辞める時なのかもしれない。 「俺ってどっかで甘えがあるんだろうなー。 道楽なんか捨てよう、働く機械になるろう、感情を捨てよう、期待なんかしたから悲しいんだ」 恐る恐る携帯をみると履歴にはびっしりベビーシッターらからの着信とメールが入っていた。その中に混じってサンドラからの着信履歴を見つけたが、ダイはベビーシッターらに電話をし、サンドラには返事をしなかった。
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