国道一号線

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 僕はある時期まで自分を強い人間だと頑なに信じ続けてきた。だから社会に出て企業などの特別な何かに属さなくても、一人の力で充分やっていけると思っていた。しかし、それは両親や社会の庇護のもとでこそ思い描けた、自分勝手な幻想に過ぎなかった。僕はやがて、自分のそういった弱さをはっきりと自覚するようになっていった。  僕は苦笑した。社会に出て初めてとなる今回の旅は残酷なまでに、そんな僕の弱さを浮彫りにしていた。    陽が西の山に吸い込まれようとしていた。今どの辺りを走っているのか。目的地には何時ごろたどり着くのか。全く見当がつかなかった。夜の帳が目の前の風景を包み込んでいく。僕もその闇に吸い込まれるように眠りに落ちていった。何かを考えるには、余りにも疲れ過ぎていた。  どのくらいの間、眠っていたのだろうか。目が覚めてからバスの赤い室内灯に目が慣れるまで少し時間がかかった。腕時計を覗き込むとすでに十一時を回っている。いつの間にか車内にもゆとりができていて、気が付けば僕も三人掛けのシートを一人で占有していた。そこにインテリ風のオヤジさんと彼のお土産であるニワトリの姿はすでになかった。
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