国道一号線

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 ニワトリにしてもそうだった。うるさくて、蹴飛ばしてやりたい衝動にかられたこともあったが、よくよく考えてみれば、このバスの中で、僕とニワトリだけが同質の異端者だった。サトウキビのかじりカスがバスの床を埋めつくしたあの時、僕とニワトリは同じ心境で、あの凄まじい光景を眺めていたはずだった。  もう少しやさしい気持ちで接してやるべきだった。奴は近いうちに間違いなく、オヤジさんとその家族の胃袋の中に収まることになるのだろう。奴の長いようで短い命の旅はバスに乗った時点で、もう終わりが見えていたのだから・・・。  僕にとって他者との出合いと別れは、いつもこんな感じだった。  面倒なことを避け、傷付き傷付けることを怖れ、相手を適当に、或いはぞんざいにあしらうのが僕の常日頃の流儀だった。その人の良さや存在の意味に気が付いた時はすでに遅く、相手は僕の手の届かない場所へと姿を消していた。そんなことを延々と繰り返し、一体僕はこれまでに、どれだけの理解し得るはずだった人々を失ってきたのだろう。
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