国道一号線

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 僕はもう一度、暗い座席の下を覗き込んでみた。当り前だが、喉をクックッケッ!と鳴らすニワトリの姿はもうどこにもなかった。  深夜に乗り降りする客は殆どいなかった。中央通路には車掌のヤサ男が敷物なしで仰向けに横たわり、死んだように眠っていた。明日の朝、恐らくこのバスは彼を乗せて、今日来た道を再びハノイへ向けて走り出すのだろう。全く御苦労な話だ。    街灯一つない暗闇の国道をバスはひたすら走り抜けていった。時折、国道沿いの村や町の中心部を通り抜けると、決まって目にするのは、オープンスタイルのカフェらしき場所で、煌々と青い光を発する四角い箱に群がる人々の姿だった。外国の衛星放送かビデオでも見ているのだろう。この国でパンドラの箱はまだ開かれたばかりなのだ。暗がりの中、吸い込まれるような目つきでテレビを眺める人々の姿に、僕は昼間となりでガイドブックを食い入るように見ていたオヤジさんの横顔を無意識のうちに重ねていた。  この国は良くも悪くも、間もなく大きな変容をとげるのだろう・・・。  僕はただ漠然とそう思った。
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