国道一号線

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 目的地のフエのターミナルに着いたのは深夜の三時を少し回った頃だった。まだ夜が明けるまでかなりの時間がありそうだ。ホテル探しにはあまりに中途半端な時間帯なので急ぐことはないだろう。後方の座席にいた僕はホコリまみれの荷物を手に、一番最後にバスを降りた。  にわかに喉の渇きを覚え、目の前のカフェに入る。中では車掌のヤサ男が一足先にタバコをふかしながらくつろいでいた。僕は無意識のうちに彼の隣に席をとった。ここもそうだが、ベトナムのカフェの椅子はたいていプラスチック製で、高さが三十センチくらいのモノが多く、腰を掛けると何だかお風呂かトイレでしゃがみ込んだような格好になる。慣れるまでは変な気分だ。  ヤサ男と同じベトナム式のドリップコーヒーをオーダーした。底にドリップ用の穴の空いたアルミ製の缶から、練乳入りのグラスに滴り落ちるコーヒーの雫を眺めながら思った。  本当に辛くて長いバスの旅だった。身も心もヘトヘトに疲れきっていた。頭の中でいろいろなことが思いやられた。これから先、僕の旅、僕の人生は上手くいくのだろうか?写真はまた以前のように撮れるようになるのだろうか?  
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