国道一号線

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 ちょうどその時、何を思ったのか隣に座っていたヤサ男が、いきなり僕の肩にぐるりと細長い腕を回してきた。一瞬たじろいだが、次の瞬間から、自分の肩をポンポンと叩く彼の節くれ立った大きな手に、僕は言い知れぬ温もりと無償の愛情のようなものを感じていた。  彼は特に何も言わなかったが、うつむく僕の顔を覗き込み、優しい笑顔で過酷だった旅の労をねぎらってくれたのだ。僕はグッとこみ上げてくるモノをこらえながらも、自然な笑顔でそれに応えていた。こんな自分の姿にお目にかかるのはずいぶんと久し振りのような気がした。人の掌の温もりなど、最後に感じたのはいつだったかさえ思い出せない。僕は長い間、自分が人肌から離れた遠い場所にいたことを実感した。  この時、何か言葉にならない大切なものを僕は取り戻しつつあった。全ての不安が消えて無くなったわけではない。しかし、前へ進むためのきっかけのようなものを、僕は手に入れたような気がした。
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