国道一号線

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 照れた勢いで、かき混ぜるのを忘れたままコーヒーを一気に喉に流し込んだ。当たり前のことだが苦すぎた。甘い練乳は溶けずにグラスの底にこびりついたままだ。それは何かの寓話の一場面のような光景だった。  そして僕は車掌のヤサ男に別れを告げた。彼は何も言わず、タバコをふかしながら手を上げて見送ってくれた。三輪自転車のシクロでお目当ての宿を目指す。夜明け前の風はTシャツ一枚の僕には少し肌寒く感じられた。  悪いと思ったが、門で居眠りしていた守衛さんとフロント係の女性をたたき起し、すばやくホテルにチェックインする。高めの部屋しか空いていないが、たまには贅沢もいいだろう。体じゅうにこびりついたホコリと汗を洗い流すべく、バスルームに入る。立派なバスタブはあるがお湯は出ない。深夜だからか元々出ないのかは不明だが、アジアの旅ではよくあるパターンだ。気合いの水シャワーだけでなんとかその場をしのぐ。そして、そのまま僕はベッドに崩れ込んだ。  中庭の建物のトタン屋根をうつ激しい雨音で目が覚めた。昨日の暑さが嘘のような肌寒さだ。お腹も減った。もう正午を少し回っている。
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