国道一号線

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 とにかく、ベトナムの長距離バスはよく客を拾う。それはアジアの国全般に言えることだが、ベトナムはその頻度のレベルがかなり高く、市内の乗合いバス並みに停車しては客を拾う。国道一号線が激戦区で、運転手や車掌の歩合がそれで上がるとはいえ、素人目に見ても明らかに乗せ過ぎだ。  ただ、僕が乗ったバスの車掌であるヤサ男の手際は見事としか言いようがなかった。増えることはあっても減ることのない乗客を彼は巧みにさばいた。彼は女子供や老人を長く立たせっぱなしにすることは決してしなかった。三人掛けが最大五人掛けになるのだから、それほど不思議ではないのだけれど、降りる客のタイミングも計算に入れて、なんとか席を確保しては彼らを座らせた。いつも陽気に通路を行き来し、疲れても決して、自ら空いた座席に座ることはなく、端から見ていて気持ちのいい男だった。
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