国道一号線

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 戦争で国が侵攻を受けた時、橋や道路の整備は場合によって仇となり、敵の進軍を助けることになるのだそうだ。隣に座っていたニワトリの持主であるインテリ風のオヤジさんにそんな説明をされながら、なるほどなと思いつつも、戦争という言葉には今一つピンと来るものがなかった。今朝まで滞在していた首都のハノイも、夜は夜襲に備えた灯火管制でもしているのかと思われるほど暗闇に包まれていたが、日中は「もはや戦後ではない」という形容が可能なほど街中に活気がみなぎっていた。  渡し場でのフェリーの待ち時間は三十分を超えることも珍しくない。いつものことだが、今回も無数の物売りたちがバスめがけて殺到してきた。タバコにお菓子、果物にゆで卵、フランスパンのサンドイッチと、まさに何でもありの状態で、ちょっとした市場の様相だ。  それにしても暑い!  バスの中は停まっている間、風の流れが無くなり急激に温度が上昇する。体じゅうの毛穴が開いていくのが分かる。脱水症状を避けるため、荷物の中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、周りの視線を感じながらそれを口にする。
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