国道一号線

6/19
前へ
/19ページ
次へ
 ベトナム人ですら暑いのだ。みんなの目がギラついている。座席の下のニワトリもバスが停まって以来ずっと沈黙を守っている。さてはこの暑さでくたばったかと、下を覗き込んでみると、足をヒモで縛られた奴は床にへばりついたまま、うつろな目でげんなりとしている。ほんの一瞬だけ目が合ったが、相手をしても体力の無駄と言わんばかりにそっぽを向かれた。ニワトリはニワトリなりに知恵を絞って、いじらしく生きているようだった。  そうしているうちに、僕の左斜め前方に座っている男が窓の外の物売りからサトウキビを買って、ガリガリと無造作にかじり始めた。そして男が何かの言葉を発したのをきっかけに、バスの乗客が次々に物売りからサトウキビを買い始めた。恐らく男は、旨い!とか、安い!とか、そういう類いのことを言ったのだろう。その言葉が暑さで渇ききった車内に連鎖反応を呼んだのだ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加