国道一号線

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 バスは無事フェリーで川を渡り、再び国道一号線を南に向けて走り始めた。しばらくすると、走行の振動で床一面に散らばったサトウキビのかじりカスは、まるでオートメーションのシステムのように通路の中央へと集まり始め、最後には三ケ所で吹き溜まりのような山になった。それを車掌のヤサ男がいつもの仕事といった風に、極めて手際良くホウキで走るバスのステップから車外へと掃き出していく。それを意に介している者は、僕以外誰もいなかった。  座席の下では再びニワトリが、クックッケッ!と喉を鳴らし始めていた。  知らないうちに、陽はかなり西へ傾いていた。どうやら暑さもピークを越したとみえ、車窓から流れ込む風が心地よい。  窓の外は相変わらずの田園風景だ。一日の仕事を終え、農具を背に家路をたどる人々。水牛の背に乗った子供たちの姿もみえる。小さく粗末な造りの家々からは、夕餉支度らしき煙がうっすらと立ち昇っている。『アジアの原風景』とは、こういう光景を指した言葉なのだろう。
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