国道一号線

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国道一号線  太陽は真上にあった。  午前中のように日射しが直接バスの中に入ることはなくなったが、天井からジリジリと伝わる放射熱でバスの中は蒸し風呂さながらだ。額から滲み出る大粒の汗が絶え間なく頬を伝う。  もう六時間は走っただろうか?暑さと疲労で先ほどからうたた寝を繰り返していた。座席の下に手荷物と同じように押し込められている一羽のニワトリが時折、クックッケッ!と喉を鳴らす度、僕は我に返った。  車窓の外に眼を走らせる。そこには広大なアジアの田園風景があった。あちこちでノン(菅笠)をかぶった農民たちが泥田に稲の苗を植えている。薄明に発ったハノイの近郊では稲刈りや脱穀をしていたのに、この辺りは田植えのシーズンのようだ。同じ日に稲刈りと田植えを見物できるのは、きっとこの国ならではだろう。    僕はベトナムの国道一号線を、主都のハノイから中部の街フエへ向かって南下する長距離バスの中にいた。東欧製と思しき、そのくたびれた鉄の塊は恐ろしいほどシンプルな造りで、なおかつ、僕がそれまでに乗ったどのバスより最高に乗り心地が悪かった。
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