「ほっこり、みっけ」

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「ほっこり、みっけ」

 瀬波穂香は考え事をしていた。  今朝、鍵がなかなか見つからなくて家を出る前から汗をかいてしまった。 「ぽっぽー」  昼間、毎月楽しみしていた限定定食が私の前で終わってしまった。 「せんぱーい」  夕方、今日は定時で帰ろうと思っていた矢先にアクシデント発生。結局会社を出たのは十時前だった。 「これって銅像か何かですか?」  退社後、コンビニに何か買おうと入ったのに、何を買いたいかを忘れてしまった。色々災難なことがあったのに、どこかほっこりとした気持ちがある。そのほっこりのおかげで災難が一気に去っていった。一体これは何だろう。 「いや違うでしょ。ぽっぽ!」  はっと我に返ると目の前で真琴さんが私の肩をおみくじ筒のように振っていて、後ろで後輩ちゃんが心配そうにこちらを見ている。両手を見たら箸の間に冷しゃぶが挟まったまま空中でぶらぶらしている。慌てて箸を上げて冷しゃぶをパクリ。あぶねーあぶねー。 「ぽっぽ何考えていたの?」  私から離れた真琴さんはクッションの上で胡坐をかいた。私が今考えていた謎のほっこりについて話すと二人は何やら思いついたように鼻をとがらせてニヤつく。 「ははーん。ぽっぽ、それは恋だな」  顎を触りながら真琴さんが小さく頷く。――?? 「先輩の好きな人気になる―!」  後輩ちゃんは座っていたクッションをポカポカ殴っている。――??? 「こ……い?」 「そう、恋だよ恋」  『こい』とはあの泳ぐ魚のこと? それとも目的があってわざとする故意? 「ラブですよ、先輩にとうとう春が来るかもですよ!」  ラブ、L、O、V、E…… ! 「なんですと!」  いきなり立ち上がったせいで足が痺れてジンジンする。それでも今は恋が頭から離れなかった。  私が恋した? いや、別に今までいなかったわけじゃないけど、昔々の話過ぎて頭が追い付いてこない。それに一番分からないのが――。 「それでそれで、ぽっぽの好きな人ってどんな人なの?」 「早く教えてくださいよ!」 「それが、ですね、誰か分からないんです」 「……」  一瞬の沈黙の後、二人は火が付いたように話し出した。 「はあーっ? そんなことある?」 「ないない、恋した人が分からないなんて先輩大分干からびてますね」 「だから、恋じゃないって可能性も」  私が言い終わる前に二人は首が取れそうなほど左右に振る。どうして第三者の二人が言い切れるんだろう。『恋は盲目、されど第三の目には鮮明に』ということなんだろうか。いや、使い方違うな。 「もっと頭の隅々まで探して良く思いだしてみてください」  後輩ちゃんが私の頭の上で両手指を奇妙に動かしている間、本当に隅々まで探したけれど、該当する人は見つからなかった。 「もうなんなのよ。あ、もうお酒無くなってるし」 「じゃあ、コンビニまで買いに行ってきます」 「みんなで行こう。これじゃあ一人が持てる量じゃ酔えないわ」  そうして二人にブーブー言われながら、私たちは外に出る。  白く煌々と光るコンビニへ行き、それぞれお酒やお菓子をかごに入れていく。  その間も私以外の二人は私が恋しているかもしれない? 相手のことで頭がいっぱいらしい。今一度言っておくけど、私が知りたいのはほっこりですよ。ほっこりー。 「あの、先輩ってどんな人がタイプなんですか?」  後輩ちゃんに言われてしばらく考える。タイプと言われても特に出てくる項目がなかった。  見切りをつけた真琴さんがチューハイをかごに入れながら質問してくる。 「体格はがっしり、それとも細身?」 ――どちらかと言えばがっしり? 「顔は塩、ソース、それとも醤油?」 ――焼きそばなら塩だけど、顔ならソース。  質疑応答を繰り返している間に買うものが決まり、レジへと向かう。 いらっしゃいませーと店員さんが奥からひょろりと出てきて、商品のバーコードをスキャンしていく。 「結局分からずじまいかー」 「もやもやしますねー」  二人が前で話している中、私は胸に手を当てる。ドクドクドク。少しだけテンポが速い気がする。どうして?  ふと、目の前にいる少し猫背の店員を見る。  体格は、細身。ドク。  顔は、一瞬で書けそうな塩顔。ドクドク。  この感覚は私がずっと探していたもの、まさにそのものだった。  タイプはてんで違ったが、二人の予想は当たっているようだ。 「……ほっこり、みっけ」  私は目の前にいる店員さんに聞こえない程度に声を洩らした。 ~次回のヒント~ ほっこりの原因を見つけたぽっぽ。 さて、彼女ならどうする!?
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