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瑞樹は親友を見送り、店内の掃除を始めた。
「まったく。計画性があるんだかないんだか。でもま、これで彼女の願いは叶わけだ」
数日前、店の閉店まぎわに毅の彼女が来店し、そろそろ結婚したい旨を、なぜか瑞樹に伝えてきた。
「僕に言わないで、毅本人に言いなよ」
「言えるわけないじゃないですか! そんながめつい真似できません!」
「いや、別にがめつくないでしょ」
瑞樹はため息をついて、紫のアネモネを一輪、彼女に差しだした。
「花言葉は『あなたを信じて待つ』」
「信じて、待つ……」
「結婚は人生の分岐点。急いてもいいことないよ」
「……ありがとうございます。そうですね。彼を信じて待つことにします」
紫のアネモネを胸に抱いて、彼女は帰って行った。
「あの二人は、ことあるごとに僕に相談を持ちかけてくるんだから」
そのとき、ポケットに入れていたスマホが、短く振動する。画面を出すと、メッセージアプリに通知がある。
『成功した』
メッセージとともに、毅と彼女のツーショットが送られてきていた。それを見て、瑞樹は返信する。
『うまくいったようでなにより。末永く、幸せに』
スマホをしまい、瑞希はチューリップの前まで行き、そっとなでた。
「西洋や英語だと、また意味が異なるんだ。赤は『私を信じて』っていう意味があって、ピンクには『幸福』の意味がある。
僕を信じて任せてくれた君に、幸福があらんことを」
親友の幸せを祈り、瑞樹は花たちから離れ、灯りを消した。
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