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「神崎さん、今日はご機嫌ですよ」
「そう、ですか……」
鍵のかかった扉を看護師に開けてもらい、洸太は恵美子と秋斗に伴われて宗佑の病室に入った。
真っ白な部屋の中で、宗佑は窓辺に置かれた椅子に腰掛けていた。
手にはスケッチブックが持たれており、絵を書いている最中だったことが分かる。
部屋に入って来た人の気配に宗佑は顔を上げて洸太の方を見た。
「お母さん……。この人達、誰?」
「宗佑……。お母さんのお友達よ。貴方に会いたいと言うから連れてきたわ」
「そうなんだ。初めまして」
にっこりと笑顔で挨拶する宗佑を前に、洸太は完全に固まってしまっていた。
これは誰だ?
自分のことが分からないだろうと叔母に言われていたが、実際に会えば父親は思い出すのではないかと構えていたのに……。
「お母さん、絵の具が足りなくなっちゃった。また買ってきてくれる?」
「いいわよ。何色が足りないの?」
「赤と黄色と緑と……」
楽しそうに恵美子と話す宗佑は、かつて自分を支配していた父親ではない。
姉がいたことも、結婚して洸太という子供がいたことも、自身の辛い過去も……。
何もかもを忘れてしまったその人は、屈託なく笑っている。
「どんな絵を書いてるんですか?」
秋斗が宗佑に話しかけると、宗佑は嬉しそうにスケッチブックを見せてくれた。
鮮やかな色使いのその絵は、何が書かれているのか分からない。だが、とても綺麗な絵だった。
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