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「綺麗な絵ですね……」
「ありがとう」
秋斗と宗佑のやり取りを、洸太は黙って眺めていた。
お父さん………。
幸せそうに笑うんだな。
あんな顔、見たことなかったや。
今、きっとお父さんは幸せなんだな…。
「叔母さん、僕、帰ります」
「洸太……。驚いたわよね。大丈夫?」
「うん。吃驚したけど……お父さん、幸せそうだから……」
父親に言いたいことは沢山あった。
けれど、かつて自分を閉じ込めていた父親はもう居ない。
まっさらに生まれ変わって、自分自身の作った幸せな世界に生きる目の前の宗佑に、洸太はもう言うことは無かった。
お父さんは、自分の中で全てを精算してしまったんだな………。
僕だけがいつまでも取り残されて、もう居ないかつてのお父さんに囚われていて……。
馬鹿みたいだ。
大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。そして洸太はふっと笑った。
「アキちゃん、帰ろう」
「ああ。帰ろうか」
「君達、もう帰っちゃうの?また来てくれる?」
寂しそうに言う宗佑に、洸太は笑顔で頷いた。
「今度来る時、また絵を見せて下さいね」
「うん。また来てね」
にこにこと手を振る宗佑に、洸太も笑って手を振り返した。
ここに来る前のどんよりとした気持ちが嘘のように、憑き物が落ちたようにすっきりとしている。そんな風に感じられた。
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