偽りの皇子(2)

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偽りの皇子(2)

の話をふれ回る男は、巡礼中のご婦人方に噂を吹き込んでいた。  タイガはつかつかと男に近づき肩を組むと、鼻先に金貨を突き出した。 「なぁ兄弟、こんなことを言っちゃなんだが、あの皇子様にこの金貨で雇われたのかい?」 「なんだと、失敬な!」  腕を振りほどくと男はタイガを睨みつけた。 「むきになるところをみると図星だろう?」 「若僧、言いがかりはよせ!」 「まぁ冷静になれよ兄弟。兄さんが手にしたこの金貨は真っ赤な偽物(にせもの)だ」 「偽物だと? 」 「そうだ。これは金に見せかけた銅と亜鉛を混ぜた真鍮だ。みていろ、すぐにも変色するはずだ」  男は狼狽えながらポケットから金貨を取り出した。 「これが偽物だというなら、その証拠を見せろ」 「いいだろう」そう言ってタイガは腰にある革袋からカナトスの金を取り出すと男の手に乗せた。重厚な輝きと精密なドラゴンの刻印に男は息を呑んだ。 「いままで本物の金を見たことがないのであろう? これが正真正銘のカナトスの純金だ」  男は唾ごくりと呑み込む。 「見比べると、確かにこちらの方が本物のような気がする……」 「純金は重みがあるうえに熱が伝わりやすく、柔らかいものだ。このように精巧で細かな刻印を押せるのは我が国の技術の証」  観念した男は長い息を吐きだした。 「私の名はサン。薪を売った帰り道、酒場で会ったアラモス大商人に雇われた」 「なるほど。やはりそうであったか。あの商人は偽りの皇子を仕立て上げ、偽物の金で詐欺を働いている。そなたはその手助けをしていたことになるが、このまま憲兵に引き渡しても良いのだぞ」 「そ、そんなぁ‥‥‥」  サンと名乗った男は動揺した。 「見逃してやる代わりに仕事を一つ頼みたい。もちろん報酬は支払う」 「仕事……?」 「その手にある金はそなたのものだ。一つあれば一月は遊んで暮らせるだろう」タイガはサンの掌に二つほど小さな金の塊を乗せた。「サン、人を使って、街中の者に知れ渡るよう、カナトスの王子がきていると言いふらすのだ」 「えっ? 言いふらすって、さっき偽者だっていったのはあんたのほうだぜ」 「そうだ。私に考えがあってのことだ」  タイガの指輪のドラゴンに気がついたサンは、金と指輪、指輪とタイガを繰り返し見比べた。 「あなたはいったい……?」 「そうだ。私が本物のカナトスの皇子だ」 「お、皇子‥‥‥さま?」  タイガはニヤリと笑った。 「さぁ、急げ、サン!」  
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